2023年5月19日金曜日

『すき・くわ・かま』


北海道ののらさんが、芽室図書館の除籍本の『すき・くわ・かまー土に生きる形』( INAXギャラリー、1991年)を送ってくれました。私の好みを知っていて、見つけたときすぐ私に送ろうと思われたとか。ドンピシャでした。

写真は板橋区立郷土資料館より

この本が数ある農具を、すき・くわ・かまに絞ったのは、巻末の方に載っていた、酒田市日枝神社の実物を組み合わせた農具絵馬(明治30年)をもとに構成されたからではないかと思いました。
絵馬の中心に据えた犂は、当時「馬耕教師」と呼ばれた、近代農法の伝道師によって全国各地にもたらされた抱持立犂だそうです。

カンボジア、プノンペン近郊の村で

犂(すき)は、牛1頭に引かせるもの、2頭に引かせるもの、馬に引かせるもの、人力で押すものなどあります。子ども時代は岡山県で、長じてからはタイ、ラオス、エチオピア、カンボジアなどいろいろな国で見てきましたが、正直大きすぎて、道具として深く関心を持つには至りませんでした。


これは、フィリピンのネグロス島で見た竹の犂(田均し)です。


ルソン島では、鍬(くわ)1本で黙々と田起こしする人を見ましたが、竹の田均しも、大いに活躍することでしょう。


手で使う農機具は、使い方のうまい人、へたな人がいますが、鍬(くわ)はとくに、持っただけでその人の使い方の上手下手がすぐわかる、ちょっと恐ろしい道具です。

その昔、タイ農村で生活向上活動に携わっていたとき、研修センターの畑を数人で耕す動画を撮ったことがありました。農民、NGOスタッフなど入り混じっていたのですが、その中に怠け者で、いつもうまく立ち回ったりさぼったりするSさんもいました。動画を見ると、そのSさんの鍬さばきはずば抜けて無駄がなくて、打ち下ろしたときもう持ち上げる準備ができているような、美しく舞っているような鍬さばきでした。他の農民たちの鍬の使い方はそこそこでしたが、まじめなNGOスタッフの鍬使いのぎこちなさ、無駄な動きには、笑ってしまうほどでした。

鍬に関しては、他にもエピソードがあります。自然農法で世界にその名を知られた福岡正信さんは、彼をしたって愛媛の農場を訪れた人たちを鍬の持ち方でも選別しているところがありました。鍬の使い方が下手だと、露骨に邪険にあしらうのです。
「もう帰れ」
と追い返されてしまう人さえいました。
そんな過激な福岡さんが、あるとき小屋を建てるためにのこぎりを使っているのを見ましたがなんとへたくそな、私は心の中で笑ってしまったものでした。
鍬がうまく使えないけれどのこぎりがうまく使える人とか、鉈がうまく使えなくても小刀がうまく使える人とか、Sさんのように鍬の使い方は天才的にうまくてもやる気がない人などいろいろあると思いますが、福岡さんの物差しは、物腰と鍬の使い方でした。


鎌(かま)は、すき・くわ・かまの中では、小さいこともあってもっとも親しみがある農具です。草むしりに使うなど、穀物の収穫作業だけでなく、いろいろ出番があります。
茨城のあたりの草刈り鎌は、上の写真の右ページの真ん中の下の、刃が直角に曲がったもので、刃が大きくて柄が長いものから、座り込んで小さな草を抜く、手のひらに収まりそうな小さいものまであります。また、稲刈り鎌は草刈り鎌の右のような形で、刃がのこぎり状になっています。


『すき・くわ・かま』には、細くて大きく曲がったタイの稲刈り鎌も載っていました。


立ったまま地面の草を刈る大鎌を上手に使う人を見ると惚れ惚れしてしまいますが、私はまったく使えません。ガーナでは、定期的に庭師さんが来て、広い芝生の庭を大鎌できれいに刈りこんでくれていました。

鉈を担いで畑を廻るラオスのスッピンさん

農具と言えば、すき・くわ・かまに加えて、(なた)の重要性が欠かせないと思うのですが、実物絵馬に鉈の姿が見えないからか、この本には取り上げられていません。
たくさんの国で、穀物を刈り取るときには鎌を使いますが季節的なもの、それに比べて鉈は、農地に行くときはいつも担いで行き、途中で木の枝を切ったり、草を払ったり、出小屋をつくるときに使ったりと、あらゆる場面で活躍するものです。


『すき・くわ・かま』には鉈が取り上げられていませんが、農鍛冶のページには鉈がしっかり見えます。

さて、INAXは興味深いブックレットをたくさん出していましたが、トステムなど数社との合併してLIXILとなってから、出版事業はやめてしまいました。


自然関係の本、


建築関係の本、


道具の本などいろいろですが、どれもとても楽しめる本です。


写真は我が家にある鎌たちです。民俗村で買った日本のに似た韓国の鎌も持っていましたが、使い倒してしまいました。
写真は、タイ、フィリピン、カンボジア、バングラデシュ、エチオピア、どこだったか忘れてしまったアフリカなどの、主には米や麦の収穫鎌です。







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