2023年5月24日水曜日

『家をまもる』


世界中の家を写真に撮っていらっしゃる小松義夫さんは、写真集だけでなく絵本もたくさん出されています。
『家をまもる』(たくさんのふしぎ、福音館書店、2022年)もその一つです。
表紙は、地震の多いインドネシアのニアス島の家の写真です。


ニアス島の村には、高床で楕円形の家が建っています。室内の壁に沿ってぐるりとベンチをしつらえている、風が吹き抜ける快適な家ですが、特徴的なのは床下にはたくさんの太い筋交いが入っていて、家を地震から守っていることです。
2005年の大地震(マグニチュード8.6)でも、屋根は多少壊れた家があったものの、建物自体はびくともしなかったそうです。
家が倒れると困りますが、屋根は軽い材料でつくってあり、問題なくすぐ修理できます。


インドのジョードブルでは、町の半分以上の家の壁が、虫よけになるという藍で染められています。
今では藍ではなくて化学的な塗料を塗った家もあるそうですが、色で家を守ってきたのです。


イタリアのプロチダ島城塞都市は、崖で家を守ってきました。


中国江南省の菊径村は、水と壁で家を守ってきました。


左ページはスペインの、右ページはポルトガルのネズミ返しのついた石の穀物蔵です。
穀物は命の次に大切なもの、ネズミに見食い荒らされないように、ネズミ返しをつけて守ってきました。それにしても、石でつくるとはすごい!


これらの穀物蔵は私にはおなじみ、といっても実際に見たことはありませんが、大好きな本Architecture without Architects』(建築家なしの建築、Bernard Rudofsky著、1964年)に載っていて、印象に残っていました。


また、アフリカや東南アジアではネズミ返しのついた穀物貯蔵庫をいっぱい見ました(残念、写真はすぐに出て来ませんが)。

奈良の竹取公園住居広場

ネズミ返しは古代には、唐招提寺経蔵など日本のあちこちにありました。また、形は違いますが、近代にもネズミ返しがつくられたようです。



上の写真は、雨季には増水して溢れる、カンボジアの遊水地に建った、水から守る家の、乾季と雨季の様子です。
カンボジアには遊水池がたくさんありますが、トンレサップ湖は最大の遊水池で、プノンペンでメコン川と分岐し、サップ川となってつながっています。メコン川は雨季と乾季では水位が約8メートル違うので、乾季には、サップ川は湖からメコン川へと流れ出し、雨季には湖へと流れ込みます。というわけで、雨季と乾季の境目にはサップ川の水の流れが数日止まってしまいます。

さて、地震、虫、ネズミ、水などから守る知恵のある家にはなるほどと思いますが、人から守るためにつくった家には、住む人に「襲われる理由がないのか?」とか、「貧しい人を足蹴にして自分たちだけいい目を見ようと思ってないのか?」など、つい疑いの目を向けたくなり、心から共感できないところがあります。紹介しませんでしたが、この絵本の中にも、復讐から守る石の塔がたくさん建っている村というのもありました。復讐されるようなことをしているのです。
ヨーロッパ、中東などでは、当たり前のように城塞都市をつくって、塀で囲まれた人々だけを守ってきました。賊や敵が来ても城壁で守ることができましたが、農民などは常に壁の外に置かれました。
もっとも、旧市街と呼ばれる城壁の中の家々は、どこもとっても美しいものなのですが。




 

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