2023年5月6日土曜日
『アンナの赤いオーバー』
『ペレのあたらしいふく』を書いたとき、北海道ののらさんから、原毛から服をつくる絵本では、ほかにも『アンナの赤いオーバー』(ハリエット・ジーフェルト文、アニタ・ローベル絵、松川真弓訳、評論社、1990年)という本があるよと教えていただきました。
原書の『A New Coat for Anna』は、1986年にアメリカで発売されたもので、第二次世界大戦直後の物語らしく、巻頭に町が大きく破壊されている絵が描かれています。しかし、爆撃で壊されている街ということは、舞台はアメリカではなくて、ヨーロッパのどこかの国だと思われます。
冬が来るというのに、アンナのオーバーは小さくなってしまっています。しかし戦争で、町には布どころか食料さえ売っていません。それに売っていたとしても、アンナのお母さんには、それを買うお金もありません。
幸い、家には幾ばくかの値打ちのあるものがあったので、まずおじいさんの残した金時計を、羊の毛と交換してもらおうと、お百姓さんを訪ねます。
お百姓さんから、羊の毛は寒さをしのごうと冬によい毛に育つので、その冬毛を刈れる春まで待たなくてはならないと言われます。
春になって、アンナとお母さんは羊の毛を手に入れます。
次にランプを持って、羊の毛を紡いでくれるお婆さんを訪ねます。
さて、全体にとても素敵な絵なのですが、織物道具などには、ついつい引っ掛かってしまうのが私の悪い癖で、この紡ぎ車で糸が紡げるかどうか、考えてしまいます。
原毛を糸にするということは、撚りをかけるということですが、紡ぎ車に掛けてあるのは糸だけ、これで原毛をどうやって紡ぐのと、気になってしまいます。
アメリカには踏板のない紡ぎ車がありましたが、これってどうやって使うのかわかりません。はずみ車と糸巻きの間、つまりおばあさんの正面に置いてある棒は何でしょう?。右手のかせ繰り機と糸がつながっているのはなぜ?
頭の中が疑問だらけになりました。
アンナが赤いオーバーが欲しいというので、お母さんとアンナは森で染料にするコケモモの実を摘みます。
ところで、赤い実から赤を染める話はあまり聞いたことがありません。西洋で赤を染めるのに使われた染料は、おもにはセイヨウアカネの根だったのではないかと思います。
織り物の工程の道具に関しては、いちいち引っかかってしまいますが、鉄鍋で染めては色が変わってしまいます。
その昔、ステンレスの鍋がない時代には琺瑯鍋を使ったと思われますが、琺瑯もないころはどんな鍋を使っていたのでしょう?
大きな甕や土鍋だったと思われます。
染め上げた糸は、機屋さんに持って行って、ガーネットのネックレスと交換に織ってもらうのですが、またこの織り機が気になります!
どこから見ても変かなぁ。とくにこの綜絖(そうこう)では織れないでしょう!
とにもかくにも布が織りあがり、仕立て屋さんにティーポットと交換で仕立ててもらいます。
そして、ついにめでたく赤いオーバーが仕立て上がります。
その年のクリスマスに、少し余裕のできたお母さんとアンナは、オーバーをつくるのに一役買ってくれたお百姓さん、糸紡ぎのおばあさん、機屋さん、仕立て屋さんを招いて、クリスマスを祝います。
ところで、このアンナ母子の部屋の梁にかかっている白い布も、気になります。なんでしょう?最初の方の室内の絵と比べてみると、白い布は増えています。
さて、これは私と弟の写真です。私の着ているハーフコートは、ものもお金もない時代に、父の軍服から母が仕立ててくれたものです。少しでも子どもの服らしくしようと、暗い電球の下で、私に内緒で母が胸にアップリケをしているのを、こっそり覗き見た覚えがあります。
これは戦後何年も経ったのに、抑留されて帰らない父を持つかわいそうな子どもとして新聞に載せるため、記者の方が来て撮った写真、私は手にキャラメルを持たされています。
もっとも、かわいそうな子も何も、私は4、5歳のとき一度父に会ったきり、弟にいたっては写真でしか父を見たことがなかったので、自分ではかわいそうな子だとは全く思っていませんでした。
アンナのお父さんはたぶん帰ってこなかったのだと思われますが、私の父は幸い帰ってきました。
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