2025年7月1日火曜日

菅野さんの投稿から

友人であり、日本の現状の代弁者でもある菅野芳秀さんがFacebookに載せたものを、転載させていただきます。
友人、知人のみなさま
日刊ゲンダイのインタビューに応えたものが
記事になりました。
ざっくばらんに応えたものですので
読みやすいかと思います。
どうぞご笑覧ください。
菅野芳秀
(リード)
 全国から集結した約30台のトラクターが東京の繁華街を疾走した。3月末には総勢4500人が参加、各地に広がる一揆デモを率いて先頭に立ったのはこの人。山形・長井市で自然養鶏1000羽を飼育しながら、水田5㌶を耕す循環型農業を営む。身長191㌢、体重100㌔超。誇りを持って「百姓」を名乗る巨漢が、絶滅の危機にある日本農業の現実を切々と訴える。
(本文)
ーー生産者目線で小泉農政をどう評価しますか。
 あれが農政と言えるのかい? コメが高いの、安いの、それだけだ。5㌔=2000円前後の備蓄米放出は消費者向けの対症療法に過ぎない。生産者の環境は相も変わらず。去年より今年、今年より来年と確実に悪化していく。何も希望は持てない。あと5年もすれば日本のコメ作りは再建不能になる。深刻なんだ。
ーー危機の要因とは?
 百姓の絶対数が足りないんだよ。戦後の農地解放で誕生した475万戸の自作農が今や100万戸を切ろうとしている。私が26歳で帰郷・就農した時、集落にコメ農家は35軒あったけど、現在は9軒。離農に次ぐ離農だ。現役の重太郎さんは83歳、建ちゃんは85歳。75歳の私が冗談じゃなく「若手のホープ」と言っていいほど。日本のコメ農家は団塊の世代が中心だ。
ーー後継者不足の問題は深刻です。
「俺たちの代で終わり」と見限って皆、わが子を別の職に就かせている。ここ1年の米価高騰で、集荷時に農協が一時的に支払う「概算金」は60㌔=1万6000円程度。最終的に清算金が入って、2万5000円行けばいい方かな。それでも、わが子に「一緒にやろう」と言える額ではない。一時的に上昇しても、続かなければ無意味だ。
ーー根本的な解決にはなりませんよね。
「令和のコメ騒動」と言われる危機も、まず政府の減反政策が背景にあり、生産者の高齢化と生産力低下が重なった。改善するには「農業で暮らしていける」「所得補償を充実させる」というメッセージが必要だけど、それだけでは若者は耕地に帰ってこない。何より誰も信頼していないんだ、日本の農政を。失望と不信感は拭えないレベルに達しているのに、小泉農相が推し進めているのは、その場しのぎの人気取り策だけ。彼に抜本改革を実行するだけの力量があるとは思えない。
ーー備蓄米が底を突けば、ミニマムアクセス(最低輸入量)米の放出、さらにはコメの輸入枠拡大に道筋をつけたがっているようにも見えます。
 実に安直な政治だね。この国の豊かな水田を生かさず、なぜ海外に頼るのか。自国の農業を強化し、消費者を不安にさせない生産体制を構築すべきで、国民の食と命を支える国づくりの根幹を放棄したも同然だ。手っ取り早いからとアメリカや韓国から輸入し、今のコメ不足を補うことしか考えていない。政治の怠慢だ。まだトランプ米大統領の「自国第一」の方が、よっぽどマシ。日本も国際政治に左右されず、自給できる体制を築き上げなければいけない。
ーー一方で、政府は水田の集約・大規模化を奨励しています。
 水田は工場と違って引っ越せないんだ。コメ農家は与えられた自然環境と共に生き、工業のようにコストや効率だけでは割り切れない。ましてや、日本の国土面積の約7割は中山間地域。そこにコメの耕地面積、総生産者数、産出額のそれぞれ約4割が集中している。大規模化に適する平場の水田は限られ、今や中山間地域がフル回転しなければ1億人以上の食料は賄えない。効率最優先で平場の水田を集約しても、中山間地域が廃れてしまえば水は届かなくなる。山から里に水が流れるのは自明の理じゃないか。
ーー確かにそうです。
 コメ作りの半分は畔や水路の整備だ。放っておけば藻や水草がどんどん育つから、手入れは怠れない。他人に耕地を預けた高齢の元農家もボランティアで参加し、地域を挙げて手伝う。水田に水を引くことで洪水防止の機能も担っている。中山間地域の水田が荒れ放題になれば平場の水田も死ぬ。大規模農家や法人が遥かな山に分け入って水路を管理するのかい? 
ーー大規模化一辺倒の風潮は危ういですね。
 今の農水省は1反あたりナンボと利益しか求めない。でも志を持つ官僚はいるはずなんだ。過去に頼まれて、新規入省者のキャリア相手に講演したことがあったけど、農家出身が結構いたよ。両親を始め苦労の割に見返りが少ないから、何とか変えたいと語っていた。残念ながら、彼らが農政の中心に立っていないんじゃないか。農業を知らない官僚や世襲議員が中心で牛耳り、そろばん勘定の農政を無理やり現場に当てはめるようとする。だから農家はやっていけず、農業と地方が衰退していくんじゃないかな。

ーーコメ農家の時給は10円とも言われています。
 農水省はコメ農家の時給を直近の2023年で97円と公表している。その前は2年連続で10円だった。とても暮らしていける額じゃない。封建制の頃は「百姓は生かさず、殺さず」だったが、今や「生かすな、殺せ」だ。それでも農家を続けているじゃないかと言う人もいるが、平均70歳超では転職もムリ。それにコメ作りは単なるビジネスじゃない。だから、祖先が汗水垂らして守り抜いた水田を後世につなぐ使命感から、採算度外視でやってきた。それが百姓の暮らしとはいえ、この苦労を子どもたちに受け継がせたくはない。もう「タスキ」を渡す相手がいないんだ。羊かんを切ったようにプツンと後継者がいなくなる。縄文時代に始まったコメ作りの伝統と文化が途切れようとしている。まさに有史以来の危機だ。
ーーもはや日本のコメ作りは維持できないと?
 その土地、土地で習得した技術を磨きながら、地域の人々と連携して何百年、何千年と受け継がれてきた知恵の集積が消えようとしている。あと数年で耕作放棄地はどんどん増えていく。今も「いい田んぼだな」と思える土地がほったらかしだ。今さら減反政策を転換しても、にかわにコメは作れない。あと5年もすれば百姓が消え、村が消え、千年の知恵が消滅する。その後に若い新規就農者が現れたって何もできやしない。小泉農相は有史以来の危機を理解しているのか。「瑞穂の国」が滅びるってことだよ。
ーー克服には20~30年単位という相当な年月がかかりそうです。
 コメが足りなくなれば、よその国から買えばいいって、それは持続可能なのか。日本の経済力は衰退の一途だ。いずれ買い負けする。他国依存は食料危機へまっしぐらの倒錯した発想で、あり得ない。誰もが命は大切なのに、それを保障する食の持続性を真っ先に考えないと。いざとなれば、百姓は家族や友人を食わせるだけのコメを手作業でも作れるけど、大都市に暮らす人々はどうするのさ。真っ先に飢えるのは、都会に住む人たちだよ。それが食料危機の本質さ。餃子ライス?を注文すれば、いつでも出てくるって発想じゃあどうにもならない。
ーー消費者の意識も問われています。
 それでも農業に関心を持つ人が増えているのは嬉しい。小さな関心を機に、農家と直接つながってくれれば歓迎するけど、タダ働きするわけにはいかない。国は新規参入しやすいように欧米並みの所得補償を与え、小規模農家を国を挙げて支援する必要がある。
ーーそうすれば多様な担い手が生まれますね。
(ズボンのポケットから数珠を取り出し)実は時々、鹿児島・知覧の「特攻平和会館」に足を運ぶんだ。私はね、当時二十歳前後で散った青年たちの子ども世代。自分たちの死は無駄じゃない、と彼らが託した未来を生きる一人として、ふるさとの荒廃を前に何もできないのは申し訳が立たない。「お国のため」と言われ、犠牲となった人々を考えれば本当は使いたくない言葉だけど、あえて言うよ。今の日本は食と命の「国難」にある。百姓がまだ残っているうちに早く手を打たないと、この国は滅びる。だから「令和の百姓一揆」は命がけさ。ぜひ国会議員も超党派で農業の復興に取り組んでほしい。食と命の問題を政争の具にしてもらいたくはないね。

(プロフィル)

▽かんの・よしひで 1949年生まれ。百姓 在学時から成田空港建設に反対する三里塚闘争へ参加。老若男女が村を挙げて農地を守ろうとする姿に感化され、帰郷と就農を決意。1988年から家庭の生ゴミを堆肥化して育てた農産物を市民に供給する「レインボープラン」の礎を築き、世界42カ国から3万5千人以上が視察に訪れた。アジア農民交流センター共同代表 置賜自給圏推進機構共同代表 他。

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