2017年1月16日月曜日

スルーハイカーの軌跡


朝日里山学校で、暮らしの実験室のふなださんのお話を聞く集会がありました。
ふなださんは、暮らしの実験室に来る前には、スルーハイカーとしてたくさんのトレイルを歩いてきて、その合計歩破距離は14,000キロにもなります。14,000キロは、日本列島を二往復半する距離です。

学校卒業後、5年間会社勤めをしたふなださんは、休暇を利用しては山を歩いたりしていました。
でも、日本の山歩きは頂上を極める山、そうではなくてどこまでも歩いて行くような歩き方はないのかと調べていて、スルーハイキングを知りました。

 
とくに、アメリカのトレイルは興味深いものでした。
アメリカには、Pacific Crest Trail(4261km)、Continental Divide Trail(4500km)、Appalachian Trail(3510km)という三大トレイルがあります。
ふなださんは、まずロッキー山脈を縦断するPCトレイルを選び、歩くための準備を始めました。準備には、つくれるものは手づくりすることも含まれていました。
アメリカでは、現代でもパイオニア精神が生きていて、トレイルを歩くような人は、できるだけのものを手づくりするのです。
ふなださんも、手探りでターフ(テントの代わりをする布の屋根)や携帯コンロなどなど、つくりはじめました。


2009年4月に、アメリカとメキシコの国境にある、PCトレイル出発点に立ちました。
高いところでは標高3000メートル以上のところを歩くPCトレイルは、あくまでも雄大でした。地図とコンパスを頼りに歩きますが、山脈を横切る道路に出たとき、ヒッチハイクで近い町まで乗せて行ってもらい、次の一週間から十日分の食料を調達します。そして、またヒッチハイクで元の地点まで運んでもらい、歩き続けるのです。

138日後、到着点のカナダ国境に着いたとき、ふなださんを襲ったのは達成感ではなく、「もう歩く道がない」という喪失感でした。そのため、帰国するとすぐに、次の年にアメリカ大陸の分水嶺のCDトレイルを歩くべく、準備をはじめました。そして、三年かけて、三大トレイルを歩破することになるのです。

最初のうち、ふなださんの関心事は、「何が自分にできるか」ということしたが、歩き続けるうちに、「何が自分にできていないか」ということに移っていきました。
大きいのは食料でした。
誰かのつくった材料を、誰かが加工したものしか食べていない。

最後のアパラチアトレイルをカナダ国境の終点まで歩き、そのままカナダのケベック州ガスペ岬まで歩き続けて、山脈が海へと沈んで終わっているのを見たとき、ふなださんには喪失感の代わりに、歩ききったという感慨と、食料をつくっている人(有機農家)を訪ねてみようという次の目標が芽ばえていました。有機農家を訪ねてみると、羊を飼ってその毛をとり、衣類をつくっている人に出会うなど、さらに自分の進む方向が見えてきました。

そして、それいまのが暮らしの実験室へとつながったのです。
 

会場には数々の手づくりの道具が展示されていました。
奥に見えるのが、手づくりのターフ、その下に蚊帳袋を吊り、小さなマットを敷いて、寝袋で寝ます。
CDトレイルからは、バックパックも軽量化をはかるために、手づくりしたものを使いました。


これは、一日に一回はお湯を沸かしたりして温かい食事を摂るための、自作のアルコールコンロです。
トレイルを歩く人たちが開発したもので、アルミ板とアルミ缶でつくってあります。三角形の台は、仕舞うときは外して、一枚ずつの板にすることができます。


火をつけて見せてくれましたが、コンロには工夫があり、液体だけでなく気体アルコールにも火がついてかなりの火力があります。一日一つのインスタントラーメンを食べるくらいなら、小さなペットボトルに入ったアルコール(ガソリンスタンドで買える)で、一週間や十日は十分持ったそうです。
鍋の蓋も、軽くするために自分でつくったものです。
 

バックパック、ウエストポーチ、ウインドブレーカー、オーバーコート、ワイシャツなどなど、手づくりのものがたくさん展示されていましたが、その中にはお連れ合いのCさんのためにつくったコートやバッグもありました。


襟は取り外し可能です。


ボタンは、寄木のボタンは高いのでコースターを買い、それを切り取ってつくったのだそうです。


使っているミシンは、電動ではなくて足踏みミシンだと聞いていたのですが、
「革はどうやって縫っているんだろう?」
と近づいてみたら、手で縫っていました!

ちなみに、三大トレイルを踏破した人には「トリプルクラウン」の称号が与えられ、毎年20人ほどがそれを受けますが、ふなださんは、その「トリプルクラウン」の称号を得た初の日本人です。






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