2015年5月19日火曜日

変な招き猫


骨董市で、おもちゃ骨董のさわださんの店をのぞくと、
「今日は招き猫があるよ」
と見せられたのは、白っぽい猫でした。顔は細かく彫り込んだ型を使っていますが、漫画顔です。
なんだ、こんなやつか。
「何これ。セメントでできているんじゃないの?」
「えっ、土だよ。古いものだよ」
「じゃあ、焼いていないのかな」
「焼いているんじゃないかぁ。色つけする前の状態だと思うんだけど」
「ふうん、そうかなぁ」
焼いてもこんな色のままの土があるのかどうか、焼いていない粘土はこんな色をしています。


漫画顔とはいえ、身体は横向きです。
身体も顔も正面を向いた西の招き猫に対して、身体が横を向いて、顔が正面を向いた招き猫は、東京の今戸焼からはじまりました。
戦後、今戸の招き猫は絶えてしまっていましたが、いまどきさん(吉田義和氏)が、丸〆猫などを古作から型起こしして、再興していらっしゃいます。

色絵人形などにも、見られないこともありませんが、身体が横向きの招き猫は、ほぼ今戸焼に限られています。
ところが、この招き猫は、一丁前に身体が横を向いています。
 

横から見ると薄い、薄い。
立体をつくろうと思った人がつくったものとは思えません。


普通、型でつくる土人形は型に粘土を押しつけたものを合わせるので、空洞になりますが、薄過ぎて空洞にならず、無垢になっています。

招き猫だけではなく、同種の人形が三種類ありました。後の二つはノンキナトウサン(呑気な父さん)とキューピーです。招き猫の表情も現代風ではありませんが、ノンキナトウサンもキューピーもおよそ「かわいい」という価値観が、現代とはまったく違う時代につくられたもののようでした。
ノンキナトウサンはなかなかよくできていましたが、キューピーは不気味でした。

ノンキナトウサンが新聞に連載されたのは大正時代ですから、この三人組も大正か昭和初期につくられたものかもしれません。


招き猫を手にして、招き猫の話をしながら、私は何故かかたわらの、変なクルミ人形に心惹かれていました。
クルミを切って、布でつくった顔をのぞかせて、しかも胡粉か何かで鼻を高くした人形は、あらぬ方を見据えています。そして、どんぐりのはかまをぶら下げています。
どんぐりのはかまの先には、何かがついていたようですが、何がついていたのか、いくら考えても思いつきません。


「このクルミをもらおうかな」
「招き猫は?」
「いいや」
「えぇぇ、この招き猫には、もう二度と出逢えないよ」
「そりゃぁそうだけど.....」
「おれも見たことないもんだよ」
けっきょく、招き猫さんもお招きしました。


そういえば、招き猫、ノンキナトウサン、キューピーは、二体ずつ、合計六体がぴったり収まる、横長の紙箱に並んでいました。
いったい、なんだったのでしょう?
そしてクルミ人形は、どこかのお土産ものだったのでしょうか?

たかが人形ですが、それがもてはやされた(もてはやされなかった)時代の世相など、数々の歴史を背中に背負っているようです。




2 件のコメント:

いまどき さんのコメント...

帰宅しました。
偶然検索にひかかって拝見したのですが、この記事には気がつきませんでした。
これはおそらく落雁とかの干菓子(打菓子)の木型から抜かれたものだと思います。稜線がいかにも刃物で掘られたような直線的な感じがします。昔招き猫ばかり専門に収集されていた年配の収集家の方からこれを使ってやってごらんなさい、って、木彫りの2枚型をいただいたことがあり作ってみたことがありました。型は羽子板のような形の2枚型です。ものの本などには今戸に限らず産地によっては木型を使って成型していたという話があり、今戸では特に泥めんこなど木型を使ったと書かれています。しかし実際木型を使って粘土で抜き出す経験をして感じたのは、粘土の湿り加減にもよりますが、粘土が木にへばりついてなかなか抜けないということでした。きら(雲母)を振ったりもしましたが意外と抜きにくいものでした。打菓子だと素材が粉っぽいので案外抜き出しやすいのではないでしょうか。猫の横座り顔だけ正面向き招きは明らかに今戸(江戸)系のスタイルですね。木型版の丸〆猫があったのか観てみたいものです。

さんのコメント...

いまどきさん
退院おめでとうございます。これからはよく休憩を入れて、背骨も伸ばして、体調に気をつけてくださいね。背骨をまっすぐして、身体を温めて、血行を良くしたら、病気はあまり寄りつかないと思います。
そうかぁ、お菓子の型で抜いたものか。けっこう大きな、お菓子にしては厚みのあるものですよ。昔、落雁ほど乾燥していない、しっとりした半生菓子がありました。あんなのでしょうか?だとすると、子どもは大喜び、なにせ子どもだったら一つ食べたらご飯が入らないほど大きなものです。
以前、犬張り子を集めている骨董屋のがんこさんが、お菓子型にしか見えない犬張り子犬の二枚(三枚?)合わせる木型を見せびらかしていたことがあります。5匹くらい並んでいました。がんこさんが、「これはお菓子じゃなくて犬張り子犬を粘土でつくったときの型ではないか」と言い、「今度これで犬張り子犬をつくったらあげるね」と約束したのですが、粘土がうまく形にならなかったようで、脚が足りないのとか、うまくはがせなかったのとか、変なのばかりしかできなかったそうで、結局もらい損ねました。犬張り子犬は、泥メンコなどと比べものにならないほど複雑な形をしています。特に脚が4本あるのが難しいと思いますが、あの木型も、もしかしたらお菓子の型だったのかもしれません。それとも、鴻巣のような練物だったらきれいに外せたのでしょうか。