久寿子よりちょっと小さめで、値段が格安だったので、「立ち人形」としては我が家で一人ぼっちの久寿子のお友だちにいいかなと、つい入札してしまいました。
ところが落ち着いて画像をよく見ると、何がどう作用しているのか、なんとなくみすぼらしい感じがします。
自分で手をかけてよくする自信がないので、きっと誰かがもっと高い値をつけるだろう、つけてくれたらいいなと心待ちにしましたが、とうとう競争相手が現れず、その市松人形は私の手元にやってきてしまいました。
お顔はかわいいのに、市松人形を貧弱に見せているのは、着物のせいでしょうか。
着物の丈はつんつるてんで、どことなく変です。
とりあえず着物を脱がせはじめて、貧弱に見えるわけがわかりました。
縮緬を使用しているというのに、裏布がなくて、まさかの単衣(ひとえ)なのです。袖の中に桃色の別布が見えますが、細い布をつけているだけ、開いていなくて閉じられています。
「信じられない!」
太平洋戦争の戦中戦後の、ものがない頃につくられたものでしょうか?
しかも、下着も長じゅばんも着ていなくて、単衣の上着一枚きりです。
これでは布の柔らかさが出なくて、見映えがしないのは当然です。
さらに驚いたことに、着物の下前にはおくみがついていません。襟もおくみがない分、短くなっています。おくみ布を使うのさえ、惜しんでいるのです。
「冗談でしょう!」
着物というものは左右対称ですが、この市松人形の着ていたのは、前代未聞の左右非対称の着物でした。そして、幼児の着物にはつきものの、腰あげも、もちろんしてありません。
おもちゃづくしの柄を活かして、パッチワーク風に布を足したらなんとかなるかしらと思っていたのですが、無理とわかりました。布の絶対量が少なすぎます。
新しい布でなんとかしなくてはなりません。
二十年ほど前に古布屋さんで買ったまま、箪笥の肥やしになっていた大名行列の図柄の長じゅばんは、着物ができるほどの分量がある布としては、比較的細かい模様です。
ちょっと地味ですが、これを解いて、着物として使うことにしました。
長じゅばんですから着丈につくってあり、着物に比べると、小さくできているものでした。
ところが解いてみると、袖が完全に二重になっていたり、お腹のあたりで布を織り込んだりしていて、ちゃんと一反分の布が、魔法のように出てきました。縫い直したとき使えるよう、切り刻まないで縫い込んであったのです。
そして、縫い目の揃って美しいこと、先達の技量に、ただただ感心してしまいました。
布はたっぷりあり、人形の着物には、柄合わせをしても両袖だけ使えば十分でした。
さて、長じゅばんを解いたあとは、本と首っ引きです。
まず、持っている本には、背丈からみて11号らしいこの人形の着物の寸法は出ていませんが、12号と10号の寸法が出ていたので、それを参考に、11号用の寸法を計算して割り出し、型紙をつくります。本には、
「型紙がきちんと裁てたら、もうできあがったも同然です」
と書いてあるのですが、そんなわけがありません。そこからがスタートです。
つくり方のページには写真が載っていますが、見ても理解できないことが多々あります。何度も何度も読み返し、それでも仕上がりのイメージがわかないときは、とにかく縫ってみます。
パズルのようでしたが、たとえ理解できなくても、縫ってみるしかありません。
休み休み、つっかえつっかえ、両袖が縫えたときは心底ほっとしました。でもほっとしている場合ではありません。まだまだ先は長いのです。
裾に、綿を入れた「ふき」をつくろうと、曲線と直線を、折り合いをつけながら縫い合わせているときは、一体誰が「ふき」など考え出したのか、泣きたくなりました。
ふきには、青梅綿を入れると書いてありますが、青梅綿はありません。家を建設したとき断熱材として使った、羊毛綿の余りで代用します。
四苦八苦のふきも、できあがってみれば、ぷっくり膨らんで、とってもかわいいものです。
とうとう着物ができあがりました。
まだ、長襦袢も下着もできていませんが、二ヶ月以上も裸で過ごしている市松人形に着せてみました。
着せて見ると、おや、貧弱な感じが払拭されました。
馬子にも衣装とはこのことです。最近、着たきりすずめの私も、少しは考えた方がいいのかと、反省するほど、素敵です。
名前は、亡き恩師のお連れ合いのお名前をいただいて、月子にしました。
さて、次は下着です。
月子ちゃん、待っててね。
8 件のコメント:
月子さん、春さんのもとへくるべきして来たお人形ですね。たぶん、他のところへいっていたら、こんなに丁寧にしてもらえなかったかも。月子さん嬉しそうに笑ってます。
hattoさん
ありがとうございます。ていねいと言っても、この時間のかかりよう。今日も下着(かさね)をつくるべく、型紙を布に乗せてみたのですが、「何も二枚も着なくてもいいじゃない。長襦袢だけにしようか。いや待て。一度くらい三枚重ねでつくってみたらどないやねん」なんて迷って、結局何もせず、一日が暮れようとしています。いつもいつも手仕事をしている人に脱帽です。にわか仕立て屋は果てしなく時間がかかっています。
思いもよらぬ時間がかかり形にならないこと、、私もよくありますよ。そんな時は一日無駄にしたような気持になったりして。春さんが、丁寧に生活している姿をこのブログでみて私も見習ってます。おかげでお雛様も出しました。ありがとう。桃の花がなかなか、いい枝ぶりのものが見つからず、花餅で代用してます。大気汚染のせいでしょうか名古屋はとても霞がかってます。
hattoさん
お雛さまは喜んだことでしょう。一年に一度くらい、雛壇に並んで、人間さまの生活をじろじろ観察したいですものね(笑)。
それでも、縫いものはやっとかさねを裁ちました。その前に焚き火したり草むしりをしていたので、手がささくれだって、紅絹とかは手にひっかかっちゃって(笑)。
今日は、北陸の方はPM2.5濃度が上がっているそうですね。ここも、だいぶ霞んでいます。
物が無い時代でも精一杯のものを着せて可愛がっていた
女の子がいたんでしょうね。
人形は気持ちをかけてくれる人がいてこそ命をもつのだなぁとつくづく思いました。
久寿子ちゃんも妹ができてうれしそうな顔ですね。
kuskusさん
その節はありがとうございました。基本的には、市松人形は手を出さない分野だったのですが、久寿子ちゃんが一人ぼっちとかなんとか理由をつけて、ヤフーオークションをのぞいて、月子ちゃんに出逢ってしまいました(笑)。まあ、二人いれば大丈夫でしょう。
なつさんのお姉さんの家では、相性の悪い人形たちもいたりということでしたが、我が家の二人は争ったりせず(笑)仲良くしています。
うふふ、禁断の道に踏み込ませてしまったようですね。
二人は姉妹のようにおだやかな顔で寄り添っているし、
手前のりりしい大猫が守人のようで、なんだか良い写真ですね。
kuskusさん
あそこは仮住まいです。猫の家です。といっても、いまのところ本住まいのあてがたっていないのですが(笑)。
いやいや、市松人形への関心はもう終わりです。ヤフオクは見なければいいのですから(笑)。まあ、骨董市などで、もともと月子ちゃんが着ていた着物で間に合いそうな、小さくてかわいい子がいたら、ちょっとぐらっとしてしまうかもしれませんね。でも、ちっちゃいのはたいてい三つ折れとかで、立ったのはいるのかな?さがしてみたりしたら藪蛇だから、さがしません(爆)。
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