古今東西、さまざまな地でつくられたものの中から、好きなものを選び出して愛でている本に、『世界の民芸』(浜田庄司、芹沢銈介、外村吉之介著、菅野喜勝写真、朝日新聞社、1972年)があります。
『世界の民芸』は、1970年から71年にかけての二年間、『週刊朝日』の連載されたものを本にしたものです。
当時、両親の家では毎週のように『週刊朝日』を買っていたので、訪ねたおりに、巻末のグラビアページを開いて、世界の民芸と出逢うのは楽しみでした。
美しい写真とともに、浜田庄司、芹沢銈介、外村吉之介という、「民藝運動」を推進してきた三人が、自分たちの探してきたものを熱く語っているのが印象的で、三人のわくわく感が伝わってくるような連載でした。
中でも、一番思い出があるのは、この袖なし上着です。
民族衣装には関心があったので、週刊誌を切り抜かせてもらって、この写真をノートに貼って持っていたのですが、渋谷にできた西武デパートの骨董屋さんで、これによく似た上着を見つけてしまったのです。
骨董屋さんとはいえ、そこにあるのが、唐突な上着でした。今考えても、どうしてあれがあそこにあったのか、不思議なくらいです。
週刊誌に連載当時に、取り上げられたものの中で、私が持っていたのはこのメキシコの入れ子の鉢くらいのものでした。
ロシアの土人形、ルーマニアの土人形などに出逢いました。
他にも、イギリスのガーデントラッグやボビン、ボリビアの曲げわっぱ、インドの馬などなど、集まってきていて、当時と比べると地球は狭くなりましたが、手仕事も消えていきました。
本のあとがきで、浜田庄司は、面白いことを書いています。
「博物館で見るだけでは駄目です。安いものでも買わなければ身につきません。そして、身についてからも、育ての親として正しく使い込むのが大事な仕事です」
また文中に、
「使わなくて、飾ってみるだけでも十分なものもある」
とも書いてあります。
なんと、私に都合のいい言葉を言ってくれているのでしょう!
さて、『世界の民芸』に取り上げられたものの中から、三つだけあげると言われたら、どれが欲しいか、欲張りな私が選んでみました。
まずは、文句なくパキスタンの団扇です。
惚れ惚れしてしまいます。こんなのを手の中でくるくる回して涼を取る、何と優雅なのでしょう。バングラデシュの団扇も素敵ですが、パキスタンの団扇にはかないません。
次は、フランスのガラスのジャム容器です。
いろいろな色が混じったガラスといい、補強のために足した縦のガラスの筋といい、手元にあったらどんなに素敵でしょう!
ところが、第三位は決めかねました。
二股の枝を活かして丁寧に編んだフィリピンの手籠が素敵です。二股の木は、縁として編みこんで、先で丁寧に合わせているのです。
ところが、トルコの飾りものも美しい!
「どっちにしようかなぁ」
トルコの飾りものは平面なので、やっぱりフィリピンの手籠にすることにしました。
この連載は二年と決まっていたので回数に限りがあり、当時の日本に馴染みのあった中国、韓国、日本など東アジアのものは取り上げなかったそうです。
浜田庄司や芹沢銈介が、東アジアのどんなものを取り上げるか、それも見てみたかった気がしますが、外村さんの選択だけは、『少年民藝館』で知ることができます。
10 件のコメント:
はじめまして。
気になる招き猫を偶然見つけました。
2010年8月2日の2番目に写っている鯛をもっている招き猫ですが、どちらでご購入されたものでしょうか。
差し支えがなければお教えいただきたいのですが、よろしくお願い申し上げます。
福井昭芳さま
コメントありがとうございました。シリーズでいろいろ出ている磁器のものですが、残念ながら買ったところは失念しています。つくられたのは、瀬戸のあたりではないかと思います。あまりお役には立ちませんが。
春さま
態々ご丁寧にありがとうございます。
実は我が家に同じ物がございまして、遊びに来た友人が気に入ってしまって、是非欲しいと言われたのですが、我が家のは愛媛出身の方からお祝いで頂いたもなので、頂いた方に聞く訳にも出来ませんので探しているところです。頂いたのは愛媛の方なのでやはり瀬戸方面の物だったんですね。
招き猫でたどり着いたブログですが、私が興味がある事ばかりのブログですので、これからも拝見させていただきます。
民芸って日本だけの話かと思ったら世界が対象なのですね。
袖なしの上着を見て、ウズベキスタン大使館に飾ってあった民族衣装を思い出しました。1997年頃は派遣で建設会社の海外部門で働いていて、入札資料の認証を取りに外務省や大使館にお遣いに行ったりしてました。当時ウズベキスタンは目黒の住宅街の普通の住宅が大使館になっていていて、通された部屋の床の間的なスペースの壁に長袖の上着がバーンと張り付けてあったのが印象的でした。民族衣装ってその民族の象徴なのですね。
福井昭芳さま
この猫たちは、磁器(常滑など多くは陶器)で、磁器人形でありながら顔が大きく、目が細いのが特徴で、全国の門前町のお土産物屋などで売られているものだと思います。我が家にもいくつかあるはずと見たところ、三つあり、どれにも底に「彩」と記した丸い紙が貼ってありました。一番小さいのは名古屋駅前の地下の商店街で買ったことは覚えていますが、他のは忘れています。
近々、できればこの猫たちをUPしたいと思いますが、情報が少なすぎですね(笑)。
こちらこそ、よろしくお願いします。
hiyocoさん
益子の、かつて濱田庄司が住んでいた益子参考館には、世界から集められたものがときおり展示品を替えて並んでいます。それを見ると、かつて地球は手仕事王国だったんだなぁと感慨深いものがあります。
もともとは、柳宋悦などが「上手物(じょうてもの)」に対して、無名の人たちから生まれた仕事を「下手物」と呼んで愛でていたらしいのですが、「げて」がほかの意味で利用され始めて、面白くないので「民衆の工芸=民芸」を使い始めたとのことです。その「民芸」も、お土産物を民芸品と呼ぶなど、筋が通らないものにも使われるようになってしまいました。私たちも「民芸品」と聞くと、安っぽいちょっと和風のものを思い浮かべてしまいますものね。
英語だとFolk Art、Folk Craftと言ったところでしょうか。
ウズベキスタンは今、私たち夫婦のあこがれの地です。夫はウズベキスタン料理を食べに、私はいろんな民具や民族衣装を見に、行くことができたらいいですね(笑)。なにせ犬猫がいる間は行けないし、知り合いもいない土地に目的もなしに行ったことがないので、実現するかどうかは甚だ疑問です(笑)。
袖なしの上着、はっと目を引く素敵なデザインですね。赤い飾りは紐のついた房ですか?それとも刺繍ですか?
おなか回りやお尻がとても暖かそうですが、身頃はどう見ても(私には)きついわ…と思って、12年4月の記事に飛んだら、やっぱり素敵ですが…きつくなったのですね(^^;)。
karatさん
房ではなくて刺繍だと思います。私の持っているものは(きっとこれも)毛で織った後、熱湯に浸しては表面をブラシでこするというフェルト加工をしてあって、目が詰んでいてとっても暖かです。そんな硬い布に刺繍は、とても大変だったと思います。
昔はセットインスリーブというのか袖ぐりも身体にぴったり合わせて、肩が凝るような服ばかり着ていました。着なくなったのはジーンズが出てきて、Tシャツが出てきたあたりでしょうか、ばかばかしくてやってられなくなりました(笑)。
だから物理的に切られるかどうかという話なら、今でも十分上着が着られます。中学生の時から体重も変わっていませんし(体形は変わり、背は低くなりましたが、笑)。でも身体が嫌がりますね。2時間くらいならそれでも問題ないと思いますが、おしゃれする必要がない暮らししているし、何を好んで我慢して着るかという感じでしょうか。上着には申し訳ないのですが(笑)。
おしゃれする必要がない暮らしは私もです。でも今度お出かけ用のワンピースが必要で、ネットでも買えるけどちゃんと試着をしたいと思って、今日わざわざ下北沢まで行って買ってきました。やっぱり試着してみると候補のいくつかは袖がパンパンだったりしたので出向いて正解でした。
ついでに春さん御用達のあんてぃかーゆがどんな店なのか覗いてみようと寄ってみましたが、なんとお休みでした!水曜日定休日なのになんで開いてないんだろう?と思ったら9月は月曜もだった~。お店のブログでSoldになっているものと春さんが紹介しているものが一致しているのが面白いです。
hiyocoさん
二年前の叔父のお葬式に、妹は母の面倒を見ているので行きませんでした。よく気の付く妹が、「喪服持ってる?」と訊いてくれました。「持ってるんだけど、ワンピースで背中のファスナーが一人であげられなくて、困ったもんだと思っていたんだよね」「私のをすぐ送るから」なんてことで借りました。私のは喪服というよりただの黒いワンピース、20年以上前に買った身体にぴったりのものでした。私よりちょっと太めの妹の喪服は、嘘のように楽ちんでした(笑)。結婚式とかは民族衣装で済ませてきました。でも同窓会は?今年あったのに行きませんでした(爆)。
わっ、あんてぃかーゆに行ったんだ!家の近くの骨董市に来るわじまさんが、「あそこは一日見ても飽きないよ」と言っていたのに、お休みで残念でしたね。そうか、私が何を買ったか見られちゃっていたか。まずいなぁ(笑)。私もお店に行ってみたいです(^^♪
コメントを投稿