2021年2月18日木曜日

自然農


Gさんが、川口さんの記事が載っていたからと、朝日新聞の切り抜きを持ってきてくれました。2021年2月12日の新聞です。
川口さんにはもう長くお会いしていませんがお元気な様子、ほっと一安心でした。手紙でも書けばいいのに、すっかり筆不精になって、なかなか書けません。電話というものも、昔ほどやたらかけるものではなくなっています。さりとてお会いするには奈良を訪ねる以外ありませんが、すっかり出不精になっています。

私が川口由一(よしかず)さんのお名前を初めて知ったのは、南インドででした。
タミル・ナドゥー州の州都チェンナイの近くにあるオーロビルという、理想郷をつくろうと世界から集まった人たちが、自足的な生活を送っているところにある農場を訪ねたとき、そこには田んぼが3枚あって、背の高いオーストラリア人が、片手に籠を抱え、水を張った田んぼの中に種を蒔いてているところでした。
どんな田んぼをつくっているのか興味津々、種を蒔いていた人に尋ねると、
「一枚はこのあたりの在来の方法、一枚はフクオカの方法、あと一枚はカワグチの方法」
と教えてくれたのですが、フクオカは福岡正信さんと知っていても、川口さんは知りませんでした。
それは1990年ごろのこと、農薬や化学肥料を使わないお米づくりを目指すアジアの人たちは、福岡さんだけでなく川口さんもよく知っていたのです。


同じ年だったか次の年だったか、シンポジウムに参加するために来日していたタイ人たちを連れて、川口さんの「赤目自然農塾」を訪ね、農場に泊めていただいたときから親交がはじまりました。以後頻繁に連絡し合い、タイでの農民研修にも来ていただきました。

福岡正信さんの田んぼの不耕起栽培は、稲を刈る前に麦の種を蒔き、麦を収穫する前に稲の種を蒔きます。
そうやって、福岡さんは見事な稲や麦をつくっていらっしゃいましたが、これは万人に出来る方法ではありません。福岡さんには深い知識があって、お天気や温度を読んで、的確な時に種蒔きをするのですが、そんな福岡さんでも、
「今年は失敗した」
ということもありました。稲は夏の草より早く芽を出さないと草にやられてしまうので、播種の日は厳密に選ばなくてはならないし、年によってまったく違うのです。
しかし、川口さんの方法は、苗代をつくって稚苗を移植することによって、誰でも草との競争に勝つことができる方法でした。


私たちも八郷に来てから10年ほどお米をつくりましたが、最初から川口さんの方法でつくるつもりでした。
田んぼには前年の稲わらを全部肥料として戻すのですが、最初の年は稲わらがありません。苗代に必要な稲わらだけはGさんから分けてもらいましたが、田んぼに入れるものは、田んぼに生えていた草のほかには、落ち葉と敷地にいくらでも生えている篠竹ばかりでした。川口さんに尋ねると、篠竹もよい肥料になると言われたので、軽トラックで何度も篠竹を運んで敷き詰めました。
通りがかりのおばあちゃんからは、こんなことをしてお米が採れるはずがないと、せせら笑われました。
篠竹の間の、わらを敷いているところは苗代です。


1月から苗代を準備して、4月に種蒔きした苗代の苗は6月にはすっかり大きくなりました。
篠竹の間からは、ヨシや他の草がいっぱい生えてきました。この借りた田んぼは10年ほど休耕していたので、ヨシ、ガマなどが蔓延っていたのです。


その、丈の高い草を刈りながらそれも敷き詰めて、その間に田植えをしました。
手前はすでに植えた後ですが、まったく目立ちません。苗を1本植えしていたら、また通りがかりのおばあちゃんに笑われました。
かつて手植えだったころから、苗は3、4本まとめて植えるものでした。また、田植え機械は、6、7本あるいはもっとまとめて植えています。


1本植えの稲は扇を広げた形に分結し、8月ともなれば、ほかの田んぼに遜色ないほど緑になりました。


そして、ほかの田んぼの稲刈りがすっかり終わった9月の終わりには、赤米、黒米、緑米、と色とりどりのお米が実りました(右の田んぼは当時は休耕中)。
残念ながら、この田んぼは水抜けがひどくて、7,8年経った頃から水を抜けなくするために耕してもらいはじめましたが、耕した田んぼの方が草では苦労しました。耕さないと耕したでは、まったく違う種類の草が生えるのです。
耕さないときは、セリやオモダカが生えましたが少量で、そのまま放っておけました。しかし、耕したあとはびっしりとコナギが生え、お米の生育が悪くなるので抜くのですが、抜いても抜いても生えてきました。

川口さんに最後に東京でお会いした2003年には、九州や埼玉など、日本各地に自然農のグループができていて、川口さんは忙しく飛び回っていらっしゃいました。


そんな自然農を実践されている、九州の方が書かれた『自然農・栽培の手引き』(鏡山悦子著、川口由一監修、南方新社、2007年)は、お米だけでなく野菜のつくり方もたくさんの絵とともに書いてある、またとない自然農の手引きとなっています。





 

2 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

「おばあちゃんは笑いました」が絵本を読んでいるような展開で面白かったです。
耕すと雑草が増えるなんて意外!コナギは初耳ですが、写真で見るとイネの間にびっしり広がって、イネとコナギのどっちを育てているのかって感じですね。根っこを切るとその分増えるドクダミを連想しました。

さんのコメント...

hiyocoさん
一度も見たことがない人は、こんな田んぼづくり驚いてしまいますよね。川口さんがこの農業を始めたとき、見知らぬ土地ではなく、先祖伝来の土地だったので、お母さんに、「みっともないからやめてくれ。目を覚ましてくれ」と泣いて懇願されたそうです(笑)。
耕さないときはコナギは1本も生えませんでした。日本の伝統的な稲づくりは草との戦いですが、耕しすぎているのが原因とも言われています。もっとも今では播種のときから除草剤を使うので、たいして草は生えません。
コナギは食べられないことはないようですが、あれがホウレンソウやセリだったら、嬉しいのですが。ドジョウも出てきて、タニシも獲れて藻とかもあったら、ラオスの田んぼのように「宝箱」になります(笑)。