カンボジアの浴用布クロマーに触れたなら、タイの浴用布パカマーにも触れる必要があります。私にとっては、クロマーよりパカマーとのつき合いの方が圧倒的に長くて深いのですから。
長い間、パカマーのことを書くのを先延ばしにしていました。
というのは、友人であり、お百姓さんであるプラスートさんのお母さんが織ってくれた、大好きな藍染めのパカマーが雲隠れしてどうしても見つからないからです。それが見つかってからと、思っていたのですが、残念ながら、今も見つかっていません。
そのパカマーの写真が残っています。
本藍染めのパカマーは見かけないものですが、元同僚のコメンさんが、おばあさんが織ってくれたという藍のパカマーを使っていて、常々うらやましく思っていました。
だから、プラスートさんにいただいた時は、小躍りして喜びました。もちろん、「欲しいなぁ」と言ったり、催促したりしたわけではありません。プラスートさんがシンポジウム参加のため日本に来たとき、お土産にいただいたのです。
以来、藍染めのパカマーは色も手触りも一番のお気に入りとなり、いつもいつも使っていました。なくした記憶はないので、今でも我が家のどこかにあるはずです。そして、いつか見つかることを願っています。
一緒に写っているウィチットのお母さんがゆらしているのは、市販のパカマーの両端を縛って柱に結びつけた赤ちゃんの揺りかごです。タイ人は、こんなに揺らしていいの?と心配するほど、揺りかごを激しく揺らします。
パカマーはたいてい経緯(たてよこ)縞の格子模様ですが、地域によって格子の太さ、色の組み合わせなどが違います。
北部のナーン県の村では、誰もが大きな赤と白、黒と白、青と白などの、きっぱりとした格子のパカマーを使っていました。この揺りかごのパカマーの格子の倍(ということは面積で四倍)以上の大きさの格子です。
私も、その赤と白の大きな格子のパカマーを持っていました。ナーン県のナーファン村に滞在していたとき、村でただ一人機(はた)を織っていた、リヤップさんに織っていただいたものです。
残念ながら、そのパカマーはどこかの村に置き忘れてきてしまいました。干したままにして旅だってしまうことがあり、ときおりなくすのです。
この薄桃色と青の細かい格子のパカマーも、そうやって失われたものです。
ただ、泊った家の誰かが使ってくれるだろうと思えば、失った寂しさも少しは軽減されますが、忘れないに越したことはありません。
ちなみに、タイ人も、
「わっ、パカマーを忘れちゃったよ」
と、言っていることがありました。
茶色っぽいパカマーは、どれもタイ東北部の農村でつくられたものです。
NGOなどが後押しして、村おこしのため、綿の栽培から糸紡ぎ、草木染めから手織りまで村でやっている、といったものです。
この二つは絹のパカマーです。
赤いのは、東北部ブリラム県のお百姓さんパンさんのお連れ合いがつくったもの、染料は化学染料を使っていますが、自分で蚕を育て、糸を繰って染め、手織りしたものです。
もう一枚の地味なのは、草木染めです。
お店で売られている機械織りのパカマー、こちらの方が一般的に使われているものです。
市販品には、糸が細くて柔らかいもの、糸が太めでしっかりしたもの、化学繊維が混じったものなど、いろいろあります。たしかに化学繊維がちょっと混じると色がいつまでも鮮やかなのですが、吸水力は落ちるので、私は木綿のものしか使ったことはありません。
パカマーはカンボジアのクロマーより一回り大きく、幅は60-80センチ、丈も150-180センチくらいあります。
元同僚のカモンさんはパカマーが好きで、一緒に旅すると、ときおり行った先でパカマーを買っていました。値段は張らないし、同じものをさがすのが難しいくらいバラエティーがあるので、手軽に収集するにはもってこいの布です。
「いったい、何枚くらい持っているの?」
「うぅん、数えたことないけど、100枚くらいかなぁ」
確かに、パカマーは何枚あっても邪魔にはなりません。惜しげもなく切って、シャツに仕立てたりすることもできます。
下に敷いてあったのは、珍しく紋織りの入ったパカマーです。
草木染めっぽい、淡い色合いもいいけれど、私はどちらかと言えばパキッとした色のものの方が好きです。それなのに、あまり使わなかったからか、淡い色合いのものばかりが手元に残ってしまいました。
タイ農村では、生まれた赤ん坊をパカマーでくるむことからはじまって、パカマーの揺りかごで育て、長じては毎日毎日身の回りから離さず、死ぬ時も使います。実際に、北部の山岳少数民族の村で、森の中で荼毘にふすお棺の上にパカマーを掛けてあったのを見たことがあります。
文字通り、「揺りかごから墓場まで」パカマーを使うのです。
2 件のコメント:
夫のサルンもこれによく似ています。え?これ、インドネシアの布じゃないの?って言っていました。
sekineさん
そうかぁ、インドネシアではサルンと呼ばれて、やっぱり格子なのですね。すばらしい!バングラデシュにも色がいっぱい入っている細かい格子だけれど、同じような浴用布がありました。タイで最初にパカマーを見たときには、「おもしろい」と思いましたが、ルーツはどれも同じなのかもしれないですね。どこのも幅広ですから、高機(たかばた)になってからのもの、地機(じばた)から高機になってもいわゆる着尺しか織る必要のなかった日本の手ぬぐいが幅が狭いのもうなずけます。
パカマーは浴用布と言うより万能布で、日本で言えば風呂敷と手ぬぐいを合わせたようなものです。日本では、風呂敷は広い必要があるので、幅をはいでいましたね。手ぬぐいはあれで、腰巻にはならないけれど機能したのでしょう。そういえば、フィリピンにもあったような。村に泊って池で水浴びしたとき、一緒に行った女性が使っていたような。ぼんやり思い出しました。でも、バスタオルだったかしら(笑)?
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