2011年9月6日火曜日

八角鉢





煮物の似合いそうな古伊万里の八角鉢に憧れていたことがありました。なんとしても欲しいものでしたが、なかなか出逢いませんでした。1970年代のことです。

もっとも、骨董屋巡りをしていたわけでもなく、今のように骨董市がたくさんあるわけでもなく、出かけた先で、骨董屋さんが目につくと、のぞいてみるくらいのことでしたが。

当時、高層ビルがポツリと建ち、開けはじめた新宿駅西口に、雑誌『季刊銀花』のお店がありました。その店で八角鉢とめぐり逢った時は、胸がどきどきしました。
「お化粧代はゼロだし、贅沢もしてないし、買うか!」
と、自分に言い訳しながら、清水の舞台から飛び降りたつもり(は、ちょっとオーバー)で手に入れました。
当時、古伊万里は今よりずっとお値段の張るものでした。

夫に言わせれば、
「その言い訳を何回聞いたか。化粧してたら、厚さ一センチも塗れたよ」
というくらい、使い古された言い訳でしたが、ものともしませんでした。




ところが、憧れの八角鉢は、使ってみるとなんとなくしっくりきません。食卓に置くにはちょっと丈が高すぎるのです。
また、内側の模様は素敵ですが、隠れてしまいますし、外側の模様は、あまりにもあっさりしすぎています。
「八角鉢、八角鉢」
と、思い込みが強すぎたようでした。

そんなわけで、煮物を盛るときの出番は、今では十回に一回ぐらいでしょうか。
「どれに盛ろうかな?」
と食器棚をのぞいたとき、目がいくのは、もっと背が低い伊万里や土物の鉢で、一瞬、八角鉢を考えても、
「こっちの方がいいか」
と、別の鉢に変更したりします。
もっとも、
「夫に縁を欠かれたりしたら大変だ」
という気持ちも働いています。


それにしても、最近の古伊万里の安さはどうでしょう。骨董市でおなじみのまことさんは、時々八角鉢も持っていますが、お互いに、
「安くなったねぇ」
と、感心したり、ため息をついたりしています。

もちろん、絵柄や、呉須の色、つくられた時代などによって、値段に違いはありますが。




先日、骨董市の、何も買ったことのないお店で、小ぶりの八角鉢を見つけました。
いつも、皿小鉢のたぐいは見ないようにしているのですが、目に入ってしまいました。お値段も手頃です。というか、安い!

芭蕉と蝶の模様で、メガネを掛けたような目をした蝶はユーモラスで、鉢の形も申し分ありません。




なにより、食事のとき、外側の模様が楽しめそうです。

しかし、懸命にも一旦見送りました。
「これ以上食器を増やして、いったいどうするのだ」
という理性が働いたのです。
ところが、
「次の骨董市で、まだ残っていたら、そのとき考えよう」
という言い訳も残しておきました。

迎えた次の骨董市、真っ先に行ってみたら、残っていました。
それでもしばし迷いましたが、これもご縁と、とうとう手に入れてしまいました。




小さい鉢には、銘々用の小鉢の感じを脱して、盛りつけ用として使えるものは少ない気がします。
両用できない鉢、お茶碗ほどの大きさだけど、れっきとした鉢、そんな鉢に巡りあえて、やっぱり幸せでした。



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