2015年11月9日月曜日

「あばえ」

作家の宇江佐真理さんが、11月7日に亡くなられました。
闘病生活をされているのは知っていましたが、残念でたまりません。


つい先日、「髪結い伊佐次捕物余話」シリーズの、『竈河岸(へっついがし)』(10月30日発売)を読んだばかりでした。

髪結い伊佐次のシリーズは、短編として書かれたデビュー作の「幻の声」を、出版社から、「続きを書いてみないか」と言われて、連作にしたものだそうです。
短編として書かれたものが連作になっただけでも驚きですが、それからすでに20年も経ち、『竈河岸』は第14巻目、シリーズとは別に、文庫版だけで発売された『月は誰のもの』を含めると15巻という、長い長い物語です。
回を重ねてからの方がずっとおもしろくなって、飽きることがありません。

ちょい役として書かれた人物が、のちに再登場して、魅力的な側面を見せながら生き生きとした一つの物語の主人公になるのは、宇江佐さんの得意技でしたが、それは古い友だちが帰って来たような、不思議な懐かしさを覚えるものでした。


この竈河岸でも、昔は手のつけられない「悪(わる)」だった旗本の息子で、いまは駄菓子屋のおやじをしている次郎衛とおのぶ夫婦が書かれています。

時間の経過と言えば、シリーズ名は「髪結い伊佐次捕物余話」ですが、伊佐次やその女房のお文はもはや主役を退いていて、いまでは、その子どもの世代の伊与太や、伊佐次の仕える不破友之進の子どもの龍之進の家族や茜などを中心に書かれています。

宇江佐さんは、20年の作家生活で、「髪結い伊佐次捕物余話」シリーズだけではなく、驚くほどたくさんの物語を書かれました。
だから、それらを順番に読むだけでも、目の前に楽しい江戸が広がりますが、「髪結い伊佐次捕物余話」は中でも特別です。
伊佐次の孫の代の話まで読んでいたかった。それがぽっきりと途切れてしまったのが、残念でなりません。

早すぎるよ宇江佐さん、そんな気持ちでいっぱいです。
深川芸者をしていた文吉こと、お文の言葉を、宇江佐真理さんに送ります。
「あばえ」






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