2025年7月24日木曜日

『越後アンギン』


『図説 越後アンギン』(十日町市博物館編集、1994年)は、十日町市博物館主催でこの年に開催された「越後アンギン」のシンポジウムに合わせて作成された資料集です。アンギンの写真がふんだんに載っていて、布というものの歴史を考えさせられます。


アンギンは長く、文献上でしか知られていない「まぼろしの布」でしたが、小林存氏が1953年に実物を発見、その後の調査で同種の布が十日町市を含む中魚沼地方及び松代・松之山に相当数存在し、しかもその制作道具や技術も残されていることが判明しました。


さらに近年の発掘にともなう考古学上の発見の中に、「越後アンギン」と同様の組織や構造を持つ編布片やその圧痕のある土器が全国的に続々と出土するようになって、この布アンギンが、遠く縄文の昔から人々の生活に密接なかかわりを持ってきたことが証明されました。


人間の生み出した作布技法として、織り布と編み布の2種類があります。
織り物は、綜絖(そうこう)を使って経糸(たていと)を交互に上げ下げしてそこに緯糸(よこいと)を通して布にしますが、道具は複雑で、道具をつくるにも、使いこなすにも特殊な技術が必要です。


それに比べて、編み物は1本の糸を編針でからませながら編んだり、アンギンのように経糸と緯糸を別々に用意して、それをからませることを繰り返しながら布をつくったりしますが、織り物よりはるかに単純な作業なので、発生史的には編み物の方が先行したというのが、定説になっています。


アンギンを編む道具は、俵編みに使うようなケタとアミアシを組み合わせたものと、経糸を巻きつけてケタにつるし、前後に動かしながら編む用具(糸巻兼錘)のコモヅチの2つだけです。


また、帯を織る道具として、アソビ(アンギンオビ織り機)と刀杼(とうじ)がある、とこの資料集にあるのですが、これにはびっくりしました。


なんと、アソビは北欧や東欧のバンド織り機とそっくりです。
いったい日本で、アソビをいつごろから使っているのか、北欧、東欧のバンド織り機との関係はあるのかないのか、そのあたり『越後アンギン』には何の記載もないのですが、とても気になります。


弥生時代以降、綜絖の伝来によって織り物技術が普及すると、編み物よりはるかに精巧な布をつくる織り物が、衣生活の主流になりました。
織り物の普及で、編み物は急速に衰退しましたが、アンギンは丈夫さや厚さなどの特性を生かした用途に限られながらも、その後も細々と技術が伝えられていきました。


その一例が、時宗(じしゅう。浄土宗の一派)の僧侶が身にまとった法衣です。
今から750年ほど前に時宗を始めた一遍上人は遊行のとき、野宿の夜着(よぎ。着物のような形をした掛布団)などにもなったと思われるアンギンの法衣を着ていました。

14世紀の阿弥衣。新潟県柏崎市専称寺蔵

今でも、柏崎市専称寺など全国の9ヵ寺にアンギンの法衣が残っており、「阿弥衣(あみい、あみえ」と呼ばれています。

余談ですが、私は小さいころ冬は夜着(かいまきとも呼ぶ)を掛け、その上に四角い掛布団を掛けて寝ていました。
祖母や母が丹前型のかいまきにたっぷりと綿を入れて手づくりしていましたが、いつの間にか使わなくなりました。
21世紀の今日でも、八郷の近くのJRの駅近くの新興住宅地で、ときおり夜着を干している家があり、そこを通るときは、「今日は夜着を干してないか」と見てしまいます。
うろ覚えですが、あきない世傳 金と銀』に、大阪店と江戸店を行き来する主人公の「幸」が、江戸から大阪に帰ったとき、夜着ではなく久々に四角い掛布団で寝てほっとする場面がありました。当時江戸では人々は夜着を使い、大阪では四角い布団で寝ていたのかと、記憶に残ったものでした。
また、江戸時代、夜着は北国の大名家の嫁入り道具だったそうですが、

愛媛県砥部の「砥部むかしのくらし館」収蔵の夜着

私が岡山県で使っていたように、西国でも盛んに使われました。
夜着は第二次大戦後、軍に使われた毛布が一般に使われるようになって廃れたそうです。





 

2 件のコメント:

かねぽん さんのコメント...

こんにちは。
そういえば僕の幼い時も夜着をかけて寝ていました。
どうしてやめてしまったんだろう?
家にあった毛布は、ほとんどが贈答品としてどこからか貰った物でしたが、そのあたりにも毛布が普及した理由があるのかも知れません。

さんのコメント...

かねぽんさん
夜着は肩のところに隙間ができないので暖かかったですよね。しかも上半身の裏にはネルが当ててあったり、襟にはビロードが掛けてあったりで、触ってもひんやりとしない工夫もされていて、気持ちよかったです。
毛布の普及だけでなく、化繊綿が出てきたり、布団の既製品が出回るようになって、夜着は廃れてしまったのかもしれません。