蓋の開け方が独特な弁当箱です。
「そうそう。昔は、職人さんがよくこの形の弁当箱を持っていたよ」
そんな話を聞いた時は、たまたまスウェーデンの弁当箱を、イエンスがデンマークで見かけたぐらいに思っていました。
だから、デンマークに行くと決まった時にも、この箱のことは頭にありませんでした。
ところが、コペンハーゲンのアンとイエンスの家で、見せてくれた箱は、スウェーデンの箱と同じつくりで、しかし、わりと大きいものでした。
「これ、お弁当箱じゃないよね。ずいぶん大きな箱だこと」
「そうだねぇ。うちでは、ただの箱として使っているけど」
「これ、デンマークの?」
「そうだよ」
デンマークとスウェーデンはすぐ近くです。
ハムレットのクロンボー城からは、スウェーデンの港が、手に取るように見えます。
左がスウェーデン、海上の大きな船は、一日に何回も行き交っているフェリーボートです。
そうか、デンマークにも同じ形の箱があったのかと、そのとき思いましたが、まだ半信半疑というか、頭に入っていませんでした。
ところが、野外博物館に行くと、同じつくりで、しかもお弁当箱ではない箱がいくつかありました。
やっと、デンマークにも、同じ形の箱があったことを納得しました。
これは楕円ではなくまん丸な箱でした。
この箱の特徴は、留め具でぴったりしめることができ、蓋についている持ち手を持って、持ち上げることができることです
箱の曲げ木は薄いので、蓋の留める留め具のつけ方に工夫があります。
これもわりと大きな箱でしたが、持ち手のところが、中途半端な形をしています。
持ち手が、とれてしまったものでしょうか。
もっと大きい、長径が40センチ近くある箱も、持ち手が取れてしまっていました。
この箱は、持ち手をぶら下げると、片手で運べるので便利ですが、欲張って重いものを入れると、壊れてしまいます。
ただの曲げ木の箱は、大きいの小さいの、オーバルの丸いの、いろいろありました。
この蓋を見ると、薄い板をつくるとき、削ったのではなく裂いてつくった、へぎ板であることがよくわかります。
箱についている糸や針金は盗難防止のためのものです。
野外博物館は入場料がただ、入口の検査もないのに、こんな細い糸だけで盗難防止をしているのですから、じつにおおらかなものです。
パン生地をこねる、木彫りの台。
パンづくり、バターづくりなど、生活に欠かせない道具には、それぞれに家に、それぞれの工夫がありました。
バターやチーズづくりの道具。
バターやチーズづくりの道具や、匙など。
筋がついたへらは、バターを丸めるものです。
同じへら二つでバターをはさんで丸めていると、バターボールができます。
できたバターを入れて抜く、バターの型。
木杓子も、うぅん、素敵!
これは、いったい何なのか、イエンスが、
「触ると非常ベルが鳴るぞ」
と脅かすので、冗談とは思いながら手にとっては見ませんでした。
脅かされたにもかかわらず、模様を彫った箱を少し開けてみたら。中には仕切りがありました。
スパイス入れだったのでしょうか?
ライ麦パンを切る道具も、素敵です。
ライ麦パンは固いので、これは手前の爪を台にひっかけるように工夫されています。
右にちらっと見えているのは、ハーブチョッパーです。
ハーブチョッパーはデンマークにもあったのか、あるいはイギリスやスペイン、イタリアなどからの輸入品かもしれません。
何を切るのかわかりませんが、このカッターも素敵です。
日本の、鶏や牛の餌を刻む、飼葉切りのようなものでしょうか。
赤ちゃんの揺りかごと糸紡ぎ機が置いてあった部屋には、
お手洗いも置いてありました。
中にはバケツか、あるいは桶が入っていると思われますが、開けてみませんでした。
これを見ると、苦い思い出がよみがえってきます。
ガーナにいたころ、ホテルは首都アクラとクマシにくらいしかなくて、北に旅する時は、政府のゲストハウスがあるところにはそこに泊って、ないところでは、車の中で野宿でした。
その、ゲストハウスのお手洗いが、このタイプなのです。ここで用を足すと、あの管理人のおじさんが外へ持って行って、捨てて洗うのだと思うと、若かったせいもあり、なかなか用を足せませんでした。
かといって、外で用を足そうと思うと、誰もいなかったはずなのに、どこからか誰かが見ています。用を足すのが、一苦労でした。
洗濯の道具、叩いて、伸ばします。
盥。
これは洗濯槽。
汚れものを入れて、ゆさゆさと内側の部分だけゆらします。
そして、これで絞ります。
イエンスは、屋根裏部屋の工作室に同じものを持っています。版画に応用できないかと思っているのですが、まだできていないそうです。
織物道具も、手づくり感溢れるものがいろいろありました。
糸巻き機。
あの、小さな島の小さな家のかせ繰り機です。
これは美しい、すてきな綜絖(そうこう)でした。
帯を織る道具です。
小さな穴と筋状に開いた穴に経糸(たていと)を通し、緯糸(よこいと)を一本通すたびに綜絖を上げたり下げたりすると、筋状の穴に通した糸は、小さな穴に通した経糸より上に行ったり、下に行ったりして、織りものができます。
ミレベルカより |
おりしも、チェコの手芸材料店ミラベルカが同じような綜絖を掲載していました。
綜絖の下に見えるのが、これで織った帯です。
このチェコの綜絖の、真ん中あたりの穴が長くなっているのは、模様織りをするためです。
同上、ミラベルかより |
こうやって、片方は身体にくくりつけて経糸を張り、綜絖を上下させて織ります。
あの、ヨーロッパの天秤棒もありました。
小さな島の小さな家の道具たち。
全部、流木でつくったのでしょうか。木肌がとても素敵でした。
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