2015年12月2日水曜日

文字が関人形


ミニカーの空き箱を仕舞おうと、薬箱の引き出しを開けてみると、中に小さな紙箱がありました。
「何か入っているかな?」
と持ってみると、からからと音がしました。


開けてみると、桃太郎さんのご一行でした。
妹の連れ合いのやすおさんの母上が亡くなられたあともらった、お雛さまと同じ「文字が関人形」です。どうしたことか、もう六、七年前から箱に入ったままにしておいた、というわけでした。
ないと思って、紙粘土でつくって足しておいた、お雛さまのぼんぼりも一つ、入っていました。
やれやれ。


文字が関人形は、親指大の手捻り人形です。
作者は、福岡県の柳瀬重朝(やなせしげとも、1977年没)さんで、一代限りで廃絶しました。

柳瀬さんは、戦地から復員して以後、沖中仕、駐留軍労務者、看板描きなど、職を転々としましたが、なかなか食べられず、進駐軍のバーから払い下げたウイスキーのポケットビンに、特性のせっけん液を入れた「シャボン玉売 り」になって、やっと生計を立てられるようになりました。
柳瀬さんは、子どもたちに、シャボン玉のおまけをつけてやりたいと考えるようになりました。そして、その昔、母親がつくっていた、しん粉細工の人形を思い出しながら、小さな土人形をつくって、シャボン玉のおまけにつけはじめました。土は乾燥させているだけで、焼いてなくて、水彩絵具で彩色しました。
手づくりの人形は喜ばれ、おりからの民芸ブームもあって、シャボン玉よりもおまけ目当てに買う人も出るほどになりました。
やがて、手びねりの素朴な人形は郷土玩具研究家たちの目にも留まり、文字が関(門司が関)人形と命名されました。


さて、文字が関人形の廃絶は惜しまれ、柳瀬さんの没後しばらくして名前が復活されました。
ただ、柳瀬さんの手捻り人形を復刻したものではなく、もっと整ってかわいい、時代に合う人形になり、踏襲されているのは、大きさと人形の種類くらいのものです。


どうしてやすおさんの母上が、文字が関人形のお雛さま揃いと桃太郎さんご一行を持っていたのか、亡くなられた今となっては、知るすべがありません。やすおさんのご両親は、中野駅前で履き物屋さんをやっていらっしゃいました。


口を開けて、笑っているような犬は、いまどきさんの今戸人形でしか見たことがありませんでしたが、文字が関人形の犬は、もっと笑っています。


そして、復活品も、犬だけはオリジナルとよく似ていました。










2 件のコメント:

じゅんこ さんのコメント...

はじめまして
なんてかわいい、健気なお人形さんたち!
文字が関人形って初めて知りました。
感動です。

さんのコメント...

じゅんこさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
私も文字が関人形については全く知りませんでしたが、今戸焼のいまどき(吉田義和)さんから教えていただきました。いまどきさんは、もともとは郷土玩具を集めていた方ですが、とくに今戸焼に思い入れがあって、今では窯元になられている方です。
手捻りで次々と人形を作り出すって、手品みたいだったでしょうね。おまけにそんな人形をもらった子供たち、どんなに嬉しかったかと思います。また、作者の方、職業を転々としたけれどだめで、「シャボン玉屋さん」でやっと食べられるようになったというのも、ちょっと前なのに全く違う世界の話のようで、面白いなと思いました。
これからも、よろしくお願いします。