2010年6月20日日曜日

穂刈りの鎌



まるでおもちゃとしか思えない、小さな小さな鎌です。





たぶん、手の中に入れて、柄の先を掌(たなごころ)にあてて、使うものと思われます。
インドネシアで、穂刈りの鎌の「アニアニ」をさがしていたとき見つけたものです。

アニアニは、クメールの鎌同様、本で知って、長い間気になっていた鎌でした。
インドネシアを訪問するたびに、市場や、道端で開かれている骨董市で、「アニアニはないかしら?」とたずねましたが、「ああ、アニアニはないよ」という人や、アニアニの名前すら知らない人もいて、アニアニの気配はまったくありませんでした。
ジャワ島では、稲刈りをしている人を見かけて、近づいてみたこともありました。すると、残念ながら、普通の鎌を使って稲刈りをしていました。

8年ほど前、フィリピンのルソン島北部に行く機会がありました。北ルソンは山岳地帯で、村は幹線道路から小道を1時間、ときにはもっと歩かないとたどり着けないところに散在していました。
そんな村に泊めていただいたとき、私は見るものすべてがおもしろく、とくに様々な用途の籠には興味を引かれ、どこにいっても熱心に見せていただきました。そして、籠つくりのおじさんからは、使っていた籠を譲っていただいたりしました。
そして夜、泊めていただいた家の子どもたち、一緒に行ったNGOの人たち、近所の人たちと、わいわい民具談義をしていました。




すると、泊めていただいた家のおかあさんが、「昔はうちも農業してたけど、今は町に出て、お店しているから使わなくなったのだけど、こんなものはいらない?」
といって、取り出したのは、インドネシアであんなにさがしていた、アニアニでした。

インドネシア人でもある、民族的にマレーと分類される人々は、海洋民族で、台湾からマダガスカルまで広く分布しています。北ルソンに住む人たち(イフガオ人)もマレーで、フィリピンの公用語のピリピノ語ではなく、独自の言葉を話しています。
ですから、フィリピンにアニアニがあっても、何の不思議もありません。
「これ、ここではなんて呼ぶの?」、「アニよ」、「ひゃぁぁ」

まさか、同じものがあっても、同じ名前で呼ばれているとは、思っても見ませんでした。
インドネシア語(マレー語)では、複数のとき、言葉を重ねます。日本語でも、山々、家々、木々、花々など言葉を重ねて複数にする言葉もありますが、全部ではありません。魚々、本々などとは言いませんが、マレー語はみんな重ねて、イカンイカンといえば複数の魚、ブクブクといえば複数の本になります。
アニアニも、考えてもみませんでしたが、鎌の複数だったのでしょう。




こうやって、手の中に入れて穂刈りします。なんと、素敵な鎌でしょうか。




籠を譲ってくださったおじさんの家の屋根裏には、種籾にする稲が、穂刈りされた状態で保存してありました。
なかなかいい方法なのでまねして、我が家でも、種籾は穂につけたまま、神棚に上げています。そして、春がきたら、千歯こきでていねいにしごいて、籾にします。



山々には、人力でつくった、信じられないような、美しい棚田が続いていました。

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