そのおやじさんが招き猫を持っていました。
気品のある、よいお顔をしているのですが、全体に煤けていて、しかもところどころ煤が禿げています。
猫を見たあと、おやじさんはと見ると、おなじみさんと話しています。おしゃべりなおやじさんではありませんから、おなじみさんがおしゃべりなのでしょう。
安かったら、連れて帰ろうか。猫を持っておやじさんの方に行きました。
「この猫はいくら?」
「.....」
おやじさんは猫を手にとって、まじまじと眺めます。
「怪我をしているから.....、可愛がってくれるなら、.....」
「.....」
「可愛がってくれるなら、持ってっていいよ」
がんこさんと違っておやじさんは何も語らない人ですが、猫を見ている目には、何か思い入れがあったようでした。
もちろん、可愛がるに決まっています。
というわけで、煤けた猫はやってきました。
一緒に行ったMさんが、
「何買ったの?」
と聞くので、見せました。
「招き猫もらったの」
「へぇ、可愛いねぇ。どこの招き猫?」
「京都かなぁ」
京都でつくられる猫に姿形はよく似てはいますが、ちょっと違うところもあります。
京都の猫は、挙げた左手と首の間に隙間があって、赤い前垂(これは自分でつくった前垂です)をその穴に通して、後ろで結んでいます。この猫もそうですが、以前地震で割れてしまった猫もそうでした。
しかし、煤けたねこには隙間がありません。最初から首輪が描いてあります。
京都の猫ではないかもしれませんが、まあどっちでもいいのです。
他の猫に詰めてもらって、居場所をつくってやりました。
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