2019年7月10日水曜日

アルス染料

二度あることは三度ある、ボトルソウドウさん、あかずきんさんに続いて、maicaさんが染料ビンを送ってくださいました。


アルス染料とアニリン染です。
アルスもアニリン染も中身入り、アルスは箱つきです。


箱には、瑞西ガイギ染料会社製とあり、発売元は株式会社桂屋商店となっています。
何故、家庭染料としては最も有名なみやこ染をつくっている桂屋商店がアルスを発売しているのか、それはこの染料の特徴にあるようでした。


アルスは、染料液に布や糸を入れて煮て(蒸して)染める染料ではなくて、筆につけて描いただけで染まる染料、しかも布だけではなく皮革や木にも染まるという、活用範囲を広げたより手軽な染料、つまり絵の具のような染料だったのです。



箱を開けると、中身入りのビンと取れてしまったラベル2枚が入っていました。


そのラベルの一枚には、日米英瑞の専売特許と書いてあります。
「ん?瑞ってどこ?」
「瑞西ガイギ」とは面白い名前の会社だなと思ったのですが、「日米英瑞」と書いてあるので、「瑞」は国の名前だったとわかります。調べると、瑞西はスイスでした。
「わぁぁ!」
日本のどこかにある「瑞西ガイギ」という染料会社でつくられたものではなく、スイスの「ガイギ」という会社でつくられていた染料だったのでした。


スイスからはるばる運ばれてきた染料。そういえば、ビンには「アルス染料」とエンボスがあるのも関わらず、このビンは西欧のビンの匂いがします。


もともと、ビンにはエンボスのない面を除いて三面にラベルが貼ってあり、「アルス」のラベルと「御注意」のラベルのほかには、各色を示すラベルが貼ってあったようですが、糊跡が残っている二面に、同封されていたラベルを貼ってみました。


コルクに四角いガラスをつけた蓋は、とくに西欧らしい感じがします。

染料そのものは、ドラム缶のような大きな容器で運ばれてきて、日本で瓶詰めされたのでしょうか?それともビン入りのままで運ばれたのでしょうか?
ドラム缶でも、内側に塗料を塗るなどすれば染料を入れることもできたと思われますが、スイスからでは2、3か月もかかります。
「御注意」のラベルに「手につけぬやう」と書かれていますが、簡単に染めることができるということは、それだけ強い化学品、劇薬だったと思われ、ドラム缶では心もとない気もします。

桂屋の「染め物ブログ」を見ると、寄贈されたアルスのビンについての記述が載っています。
maicaさんはアルス染料について調べている過程で、桂屋にも問い合わせたけれど、関東大震災や東京大空襲によってすべてが失われてしまったので、何もわからないという対応だったとおっしゃっています。
ご本人には確かめていませんが、桂屋のブログに載っているアルスのビンは、たぶんmaicaさんが寄贈なさったものだったのでしょう。

指ででも抑えたように、ガラスの端がずるっと落ちている

パテントはスイス人のJ.R.Geigy(英語風に読めばゲイギーだけど、これがガイギ)さんが持っていたようです。

アルスの箱にも、一面に英語の説明文が書いてありますが、桂屋商店は日本向けだけの発売元だったのか、それともジャワなどアジアには日本から送られていたのか、何もわかっていません。

私が染料ビンに関心を持ったのは、ビンとして種類もあり、エンボスもあるということと、戦後すぐの時代にはとても身近なものだったということでしたが、染料ビンにまつわる様々な話には、ビンの魅力に劣らぬ面白さがあるようです。







4 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

うわー、舶来モノのなのに、瓶に日本語がエンボス加工されているなんて気になりますね!染料をタンクで運んで日本で瓶詰めが一番わかりやすいけど、劇薬やコルク栓のことを考えるとどうなのかな~と考えちゃいますね。

さんのコメント...

hiyocoさん
明治か大正か、日本人がほとんどヨーロッパにはいかなかった時代ですよ。
しかも生活必需品というわけでもない染料をスイスから持ってきてどんどん売った。今でもそうでしょうけれど、世の中には一部の人しか気がついてないことがいっぱい起こっていたのだと、びっくりします。
1990年代までクラスター爆弾の部品が日本でつくられていたことなんか、ほとんどの日本人は知らないですよね。戦後ずっと戦争にはかかわりなく生きてきたと思っている人が大部分じゃないでしょうか。
自分は地球の一部に生きているのに、思いがけないところと深くつながっている、そんなことまで考えさせられました。
染料ビン、深いなぁ(笑)。

maica さんのコメント...

なんということでしょう!
アルス染料が輸入品だったなんて!
あんなにラベルを見ていたのに全く気づきませんでした(笑)
中身だけなのか瓶ごとなのかわかりませんが、群を抜いてオシャレなあの瓶の説明が付く気がしますね。
瓶詰めしたものを輸入して日本で作ったラベルを貼ったと思うとしっくりきます。
朽ちていましたが、蓋の十字の溝には針金が巻かれて蓋が止められていたようです。
勉強になるな~(^ω^)

さんのコメント...

maicaさん
ありがとうございました。
普通の染料ビンを見慣れていたので、最初見たときなんか、おしゃれと思うより違和感がありました。
そして、maicaさんのブログを見たときは針金で結わえていたのを知っていたのですが、スイス製とわかってからは針金のことはすっかり忘れてしまっていました。針金で縛ってあったとなると、もっと日本のものではない感じがします。
昔は梱包材などもあまりありませんでしたが、ボール紙を組んでハチの巣みたいなのをつくったとしたら、丸いビンより四角いビンを詰めて送る方が効率的ですね。木の箱にびっしり入れて送ってきて、日本でラベルを貼ったと考えたら、わくわくしてしまいますね(笑)。