2019年10月19日土曜日

塗り壁が生まれた風景

ピクニックバザールで、村尾さんの本が並んでいたでしょう?」
と、kuskusさん。
「ちらっと見たけど茜さんの絵に目を奪われていたわ」
「村尾さんの絵がいっぱいの本を買ったら、鏝(こて)の缶バッジをおまけにもらったのよ」
そうか、村尾さんの本を売っていたのか。遠目に数種類並んでいたのは見たけれど、売っていたものとは気がつきませんでした。
村尾さんの『どぞう』はおもしろかった、さっそくAmazonで取り寄せました。


『絵でつづる 塗り壁が生まれた風景 左官仕事のフォークロア』(小林澄夫文、村尾かずこ絵、農文協発行、2018年)です。

あとがきを見ると、これは書き下ろされたものではなく、『左官教室』という雑誌に、1995年から2005年まで連載されたものを集大成したものでした。
『左官教室』という雑誌はなんと、1950年くらいからあったらしい、小林澄夫さんはその『左官教室』の編集を、1968年から2007年までなさっていた方です。
この本で紹介されているものは、連載された当時にすでに消えてしまったものや、消えそうなものもあったそうです。


この本を見ると、壁を濡れた材料で塗るという左官仕事は、各地の手に入りやすい材料を使って、その土地土地に発展してきたことがわかります。
石、砂利、鉱物など山から採れる材料、稲わら、麻、葛、膠など野から採れる材料、貝殻、つのまた、ふのりなど海から採れる材料を組み合わせて、その土地固有の壁をつくり出しました。


それが、日本の風景となっていたのです。

今、家は安いことと室内が快適であることが最優先されていて、家がどんな風景をつくるか、まったく考えられていません。また、ビルなどは工場製品の組み合わせでできています。
それが風景を冷たくしたり、汚くしたりしていますが、誰も気にしません。


この本を見ると、「暮らす」ということが、その地域にすむ人々の手にしっかり握られていたことが感じられます。


日本各地の左官仕事が紹介されている中に、岡山県のマスカットのハウスが載っていました。石と土壁とガラスでできたハウスです。
小さいころ倉敷に住んでいたので、いただいたりしてマスカット・オブ・サングリアを口にすることがありました。祖母はマスカットが大好きで、綿にくるまったマスカットを丁寧に扱い、一日に2.3粒しか食べさせてもらえなかったのですが、このハウスを見て、当時岡山のマスカットがどんなに貴重なものだったか思い知りました。


左官仕事だけではなく、ほかの材料で風景をつくっていたものも載っています。
懐かしい、杉の焼き板の壁がありました。かくれんぼをして、狭い建物と建物の間に隠れると、必ず服が汚れてしまいました。
これも焼き杉板を張ってはいますが、下は土壁でした。


左官屋さんがいれば鏝(こて)をつくる鍛冶屋さんもいました。
そんな鏝づくりも紹介されています。

知らなかったけれど、この連載に絵を描いたことが、村尾さんが左官屋さんになる原点になったよう、そのあと、左官屋さんで修業されました。
人生には、いろいろなチャンスが転がっています。それをつかむかつかまないか、それによって思わぬ展開ができたりするものです。







2 件のコメント:

rei さんのコメント...

小林澄夫さんの著書「左官礼賛」を20年近く前に読み、面白くて皆さんに薦めた記憶があります。その後「左官礼賛Ⅱ」が発刊されたのですが読まずにいました。小林さんは「左官教室」が廃刊になった後も月刊「さかん」の編集をされた様です。紹介して頂いた「塗り壁が生まれた風景」も含めて、暫くぶりに小林澄夫の世界に触れてみたくなりました。

さんのコメント...

reiさん
昨日木組みで家を設計している方に会ったのですが、小林澄夫さんをよく知っている方で、私の勧めた『塗り壁が生まれた風景』を今読んでいて、面白いと言っていました。
その昔、日本の風景が美しかったのは、確かに塗り壁も含めたその土地その土地の自然素材の美しさでした。ほとんど消えてしまって、悔しい気持ちがします。
私は小学生から中学生になった頃まで祖父母と岡山県に住み、長い休暇には東京に住む両親と暮らすという変則的な生活をしていたため、一年に一度か二度は東海道線を、急行列車に乗って16時間かけて行ったり来たりしていました。
車窓の景色、家や集落のたたずまいを見るのが好きで見飽きることはありませんでしたが、中でも静岡県と愛知県の境あたりか、赤い壁の家を見るのが大好きでした。新幹線ができてからは一瞬で通り過ぎるので、また伝統的な家が消えて行ったので、赤い壁の家々はなかなか見つけにくいのですが、それでもあの辺りを通るときは、今でも目を凝らしてしまいます。一度は家を壊したのか、赤い土を盛り上げているところも、新幹線の窓から見たことがあります(笑)。
私も、『左官礼賛』を読んでみます。もっとも、私自身は左官仕事を半ばギブアップしているのですが(笑)。