2010年6月15日火曜日

カンボジアの鎌




刃物が好きです。鎌をUPしようとして、「やっぱりカンボジアの鎌からだよなぁ」と思って、高いところの壁にディスプレイしてあったのをはずしてきたのですが、せっかく糸で籠に縫いつけたこの鎌、外すとあとが面倒なので、このまま写真に撮ってみました。



タイの農作業について書かれた本の中で、クメール(カンボジア)スタイルの鎌の存在を知ったのは、1980年代の半ばだったでしょうか。モノクロの小さなイラストだったか、写真だったか、見たことのない形だったので、いつか見てみたいものだと思ったことでした。

タイのスリン県には、クメール人の村がたくさんあります。スリンやブリラムに行くたびにクメールの鎌をさがしてみましたが、まったく手がかりはありませんでした。

1990年、初めてカンボジアを短期訪問しました。国連に国としてやっと認められ、西側諸国との関係がはじまったばかりのころで、車は古い型のものが少ししか走っていない時代でした。
プノンペンから、タイ国境に近いバッタンボン県に行く途中だったでしょうか。こぼれんばかりの農民を、荷台に立たせて運んでいるトラックとすれ違いました。そのうちの一人が、なんと、あのクメールの鎌を持っていたのです。
「ほら!こんな鎌」
私は絵を描いて、今は亡き、もと同僚のUさんに示し、町に着くたびにさがしてもらいました。しかし、クメールの鎌はまったく見つかりませんでした。

見つからなかったはずです、この鎌は、プノンペンより東の、プレイヴェン県で使われているものだったのです。
カンボジアの稲作と言っても、地域によって大きく違います。雨季に、田んぼに雨水が溜まったら田植えをする地域、メコン川の増水がはじまったら田植えをする地域、メコン川の水が引きはじめたら田植えする地域、乾季に潅漑水で田植えする地域などなど、稲の種類も、育てる時期もまったく違います。

地域によって、肥沃な土地もあれば、砂地もあります。小農もいれば、大農もいます。農具もそれそれの土地に合ったものを使っているのです。

私がクメールの鎌と出合ったのは、もっとずっとあとのことでした。



この鎌は、他では見ることのできない、独特な形をしていますが、まず、曲がった柄に引っ掛けて、倒れてしまった稲を起こします。そして、手をくるっと返して、今度は刃で、稲を刈るのです。まるで、クメールダンスのような優雅な動きです。

これは、『道具と使い方』という本に載っている、クメール鎌のイラストです。



『道具と使い方』には、素敵な道具がたくさん載っています。あるギャラリーが出版したものですが、出版に合わせて展示会もやりました。ギャラリーがアパートの近くだったので、会期中は何度も足を運んだものでした。
表紙は、牛の口に被せる籠の写真です。田起こしのときなどに使います。



鎌の柄は、木の枝などを利用してつくるので、一つ一つ、形が違います。
特徴は、柄の端に、美しい彫刻がほどこされていることです。



これは、横長な上の鎌に比べれば、ずいぶん縦長です。



飾りと補強をかねて、金属も部分的に使われています。



この鎌は、携帯しやすいようになのか、3つに分解できます。



これらの鎌を見て、鉄にこだわっているある友人が、「それにしても、刃は貧弱だなあ」と、言いました。
確かに、柄には意匠を凝らしていますが、刃はついていればいいという感じでしょうか。
日本人が鎌の柄にこだわっていないように、カンボジア人は刃にはこだわってないようです。



典型的な彫刻です。



美しく、彩色したものもあります。



そしてこれは、猿が果実を抱いた、とても珍しい彫刻がほどこされた鎌です。
上から二番目の鎌だけは、市場で買った、新しいものですが、あとは古いものです。
今でも、クメールの鎌を見ると、ついつい欲しくなってしまいます。


9 件のコメント:

kit さんのコメント...
このコメントは投稿者によって削除されました。
kit さんのコメント...

はじめまして。カンボジアの鎌について興味を持ち調べ始めていくうちに、こちらのページを見つけ、とてもうれしく、コメントをしています。いろいろと探しているのですがなかなか有力な情報を見つけることができないでいました。そんななか、地方名や書籍などを知る事が出来とても感謝しております。ありがとうございます。もしよろしければ、この鎌についてなにか他の文献等ご存知でしたら教えて頂きたいです。また寄らせて頂きます。

さんのコメント...

kitさん
はじめまして。コメントありがとうございました。
カンボジアの鎌は研究か何かなさっているのですか?本は、『TOOLS AND PRACTICES』以上に詳しい文献は見たことがありません。『TOOLS AND PRACTICES』には、「柄の曲がった鎌は、丈の高い倒伏した稲に使う。柄は曲がった木を材料にする。曲がり具合が大切。柄の先には装飾を施したものもある。部分的には動物の骨も使ってある」ということが書かれています。
『THAI FORMS』という写真集に一葉の写真が載っていますが、「タイ東部の鎌」というキャプションがついているだけです。
あのあたりの農具については、30年くらい文献を見ていますが、たぶんないと思います。もっともこの10年くらいに発行された本については、私は知らないのですが。
また、遊びに来てください。

kit さんのコメント...

お返事ありがとうございます。私はいま学生で、古い農具の研究をしています。カンボジアの鎌は一度博物館で実物を見たのみですが、どうしてもこの形が気になり、少しずつ調べています。そんなとき、春さんのブログに行きつくことができました。他にもいろいろ興味深い内容の記事があるので、とても勉強になっています。『TOOLS AND PRACTICES』もいちど見てみたいと思います。貴重な情報をありがとうございました。

さんのコメント...

kitさん
鎌と言えば、アニアニも面白いですよ。http://koharu2009.blogspot.jp/2010/06/blog-post_20.html
その土地によって発達してきた農具が、いろいろな理由で消えていくのは残念ですが、どこでも急速に消えて行っているような気がします。

kit さんのコメント...

こんにちは。アニア二のページも拝見させて頂きました。そのページに載っている、手に収まる鎌もとても興味深いです。農具がどこも急速に消えていく状況本当に悲しい限りです。わたしも、今まだ残る手がかりをもとに農具の良さを追求していきたいと思っています。
そしてたびたびですが、クメールの鎌の質問をさせて下さい。
私は先日クメールの鎌の実寸モデルを作り、使い方の文章を参考に使用方法を試してみたり、使用方法の動画を探してみましたが見つからず、どうしても正しい使い方が分かりません。お手数ですが、持ち方や、動作など詳しく教えて頂けますでしょうか。よろしくお願い致します。

さんのコメント...

kitさん
刃を下にして、引っかける方を上にして(つまり全部重なるので一本の棒に見える角度で)、竹刀を持つように、上から握ります。もし、竹刀を握ったことがなかったら、どなたか剣道を知っている人に聞いてください。
手首を中に入れるようにして、曲がっている木の方で、倒伏した稲をひっかけて拾います。次に左手で拾った稲を束ねて持ち、鎌を前に押して稲束から外してから、手首を外に返して、刃を稲束にあて、引いて切ります。
プレイヴェン県の稲は、雨季には水につかる田が多く、長く延びるものが多いのですが、刈る場所は株から30センチくらい上でしょうか。田んぼに残した、わらつきの株は、どこの牛が食べてもいい餌になり、株を残すことで肥料としての糞尿が期待できます。また、刈り取った稲わらは、乾季の自分の家の牛用の餌となります。
感じがつかめたでしょうか?

kit さんのコメント...

すごく丁寧に教えて下さりありがとうございます。とても分かりやすく感じがつかめました!稲を起こしてから一度外して手首をひねって切る。やはり聞かないと分かりませんでした。本当にありがとうございました!!手頃な草を探してためしてみようと思います。また分からないことがあったら教えて下さい。

さんのコメント...

kitさん
感じがつかめてよかったですね♪
またわからないことがあったら、遠慮なく聞いてください。