2016年4月26日火曜日

透かし編みの籠

 
巻き編みの籠は、その巻き方によって、いろいろな表情を見せます。
これは、インドネシアのバリ島でつくられたアタ(シダ類)の籠で、水平方向に芯材を置き、巻き材で巻いていきますが、細かく編んでいるので、芯材は隠されてしまっています。

巻き編みは、アフリカ、ヨーロッパ、中南北アメリカ、東南アジアなどなど、ほぼ世界中で見られる編み方で、もしかしたら、籠の編み方でもっとも広範囲に広がっている編み方かもしれません。

 
同じ巻き編でも、粗く編んで、芯材を見せている籠も、多くあります。
これはヴェトナムの籠ですが、太くて丸いラタンを芯にして、扁平なラタンで巻いてあります。


バリの籠も、ヴェトナムの籠も、芯材を上下二本一緒に、巻き材でしっかり巻いているので、芯材と芯材の間には隙間がありません。

『世界の籠文化図鑑』(ブライアン・センテンス著、福井正子訳、東洋書林、2002年)より

同じ巻き編みでも、芯材と芯材の間に隙間をつくっている籠もあります。
どちらも、インドの手提げです。

『BASKETS AS TEXTILE ART』(ED ROSSBACH著、1973年)より

メキシコの籠も、隙間をつくっています。
メキシコの籠は、パルマと呼ばれるヤシの葉でつくられていますが、インドの籠もヤシの葉に見えます。

メキシコ雑貨「MANO」のホームページより

隙間をつくると、材料の量が少なくなるので、軽い籠ができます。
隙間はどうやってつくるのでしょう?

『BASKETS AS TEXTILE ART』(ED ROSSBACH著、1973年)より

巻き編みの場合、普通は巻き材で芯材を巻くだけですが、芯材だけでなく、芯材と芯材の間の巻き材を巻き材で巻くと、巻き材の幅分、隙間ができます。

インドの籠は、上下の芯材を一緒に巻いては、そのつど巻き材を巻いて編み進めていますが、メキシコの籠は、しばらくは芯材一本だけを巻いて、一定進んだところで、上下の芯材を一緒に巻いています。
インドの籠は、中に重いものを入れるかもしれない、それを持ちあげて使うので、より丈夫につくってあるのに対して、メキシコの籠は置いて使うものなので、早くつくれて、装飾性もある方法を選んでいるのだと思われます。


同じ手法でつくった、フランスの19世紀の籠です。


芯材のラタンを上下まとめて巻き材のラタンで巻き、次に、巻き材で巻き材を一度巻いてから次の工程に進んでいます。
目の詰んだ、美しい編み目です。


底から側へと立ち上がる部分に、台座をつくって、底全体が痛まないようにしてあります。
よく使ったのか、台座部分のラタンが擦り切れていますが、そこから解けてくることもないほど、しっかり編まれています。


ラタンはヤシの一種で、熱帯アジア、太平洋諸島などで採れますが、早くからヨーロッパにもたらされていました。
ヨーロッパではもともと、籠材として、柳の枝、トネリコなどの木を薄く裂いたもの、麦わらなどが使われていました。しかし、イギリスの漁師の使う筌(うけ)や、びくなどの漁具は、19世紀には、すでに柳からラタンに取って代わられていたという記録があるほど、使いやすい素材であるラタンは浸透していました。
 
カンボジアのコンポンチャムから北西に行った森林地域にある、ラタンの輸出店の一角

ラタンは、太いものは直径3センチくらいになります。丸いままでも使え、はいで扁平にしても使え、極々細くて薄い材料もつくれます。
しかも、しなやかで可塑性に富んでいる優れた素材ですから、ヨーロッパで早い時期に柳がラタンに取って代わられたことは、容易にうなずけます。
日本でも、明治のころから輸入されていて、籐椅子や枕などがつくられていました。
だjから、この籠がフランスでつくられたとしても、おかしくないのですが、ちょっとひっかかってしまうのです。
フランス人は扁平な素材より、丸い素材で編む方が慣れていたのではないかと。


これがフランスの籠です。
柳の枝でざっくりと編んだ、オープンワーク(透かし編み)と呼ばれる籠です。

『BASKETS AS TEXTILE ART』より

大胆で自由に形づくり、それでいて頑丈なのがフランスの籠です。


それに比べると、この籠は何とも繊細です。「もしかして、東南アジアでつくられたものではないかしら?」
そんな考えが、頭をよぎってしまいます。
もっとも、日本にもいろいろな籠があるように、フランスにもいろいろな籠があるのに、違いないのですが。

ずっと昔、タイの博物館で、展示はしていない、古くて貴重な布を見せてもらう機会がありました。
「あらっ、これはカンボジアの布じゃないですか!」
と言うと、博物館の館長さんはすまして、
「なに、あそこもタイの領土でしたから」
と言いましたが、たくさんの地域を植民地にしていたフランスでも、同じことが起こらなかったかしら?
根拠がないのに、そんな気がしてなりません。








2 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

かご、何個お持ちなんですか~?!
おしゃれなマダムが籠バッグを持っているのを見るとカッコイイ!と思いますが、山ブドウの籠バッグなど値段を見ると目玉が飛び出ます。
棚に並んでいるのは無印のラタンですよね?うちにもあるので見ると、あれ?編み目が春さんちとうちは逆。よく見ると、サイズに寄って右巻きだったり左巻きだったり、でした(笑)。作る人の利き手の違いでしょうか。

さんのコメント...

hiyocoさん
籠大尽と呼んでください。なんて嘘(笑)。籠に目がなくって。

山ぶどうの籠バッグ?そんな高価なものはありませんよ。お高いのは6桁ですって!信じられない。
といいつつ、注文して、何年か後にできてきて、私的には目が飛び出してしまった籠はあります(笑)。でも、目を飛び出させて、電話で文句なんか言って悪かった。その方は、納得のいくものをつくろうと何年も試作を重ねて、やっと納得がいくものができて送ってくださったのでした。

お察しの通り、四角いのは無印の籠です。深いのを最初に買って、数年経ってから浅いのを買いましたが、全部同じ方向「逆ノの字」です。カタログを見ると、やっぱり両方あったので、芯材を時計回りにするのと、その反対かと籠を見たら、なんと、芯材が一本じゃない!段ごとに切れたものでした。
端は強力接着剤でつなげているのでしょう、超ハイテクでつくってありました。そういえば、底の芯材は一本を曲げたもののようだけど、曲がり方が自然じゃありません。
器用なヴェトナム人のこと、たぶん無印の、無理難題の注文に、泣く泣く応えているのでしょうね。あっ、そんなこと言っちゃいけないか(笑)。