2025年12月22日月曜日

朝鮮の刺繍


織物の先生だった近藤由巳さんが遺した本の中には興味深い本がたくさんありますが、1995年に埼玉県立美術館で開催された「李王朝時代の刺繍と布」展のカタログ、『李王朝時代の刺繍と布・Patterns and Colors of Joy』もその一つです。
譲っていただいてもよかったのだけれど、今でも販売されているかとネットで検索したら、「日本の古本屋」にあったので、手に入れました。「日本の古本屋」は、全国の古書連加盟古書店から古本を取り寄せることができる、嬉しい本屋さんです。

カタログの裏表紙

このカタログで紹介されている布は、すべて
許東華さん(韓国刺繍博物館館長)のコレクションです。
許東華さんのコレクションは、刺繍布との出逢いからはじまったものですから、許さんとしては刺繍の布をカタログの表紙にしたかったかと想像しますが、日本では朝鮮(韓国)の刺繍は当時は(今も)ほとんど知られておらず、パッチワークのポシャギ(風呂敷用途の布)の方がよく知られていたので、カタログの表紙も裏表紙も、カラフルなポシャギにしたものと思われます。
もちろん、表紙をはじめ、どのポシャギもとても素敵です。


長寿を表す鶴や亀、そして山、雲、水、松、不老草などの刺繍は、屏風の一部です。
上流社会では、正月など季節の節目には屏風が欠かせないもので、これは十長生(シプチャンセン)のモチーフでつくったものです。

『十長生をたずねて』(チェ・ヒャンラン作絵、おおたけきよみ訳、岩崎書店、2010年)

朝鮮文化も日本文化同様に中国から深く影響を受けていますが、不老長寿や永遠の生命を象徴する十長生は朝鮮固有のもので、鹿、鶴、水、山、太陽、竹、不老草、松、亀、雲の、10種類の自然物を指しています。


屏風の題材として、十長生のほか、鳥など自然のモチーフや、子どもの遊び、道具を刺繍したものなどが紹介されています。


中には、農民の生活を描いたものもあります。
儒教では階級がはっきり定められていて、屏風は庶民ではなく上流階級の人々の間で使われたものですが、日本の身分制度が、士農工商と、生きることの基本である食料を生産する農民を階級の高位置に置いたように、朝鮮でも上流階級の人々の間に、農民を尊重して、忘れてはいけないという思想がありました。


刺繍から、当時の農村生活を垣間見ることができます。

さて、以前、武官の背守りを取り上げたことがありました。
当時、これは日本の子どもやモン人の背守り同様、危険から身を守る(武運を祈る)という意味くらいだろうなと考えて調べてもみなかったのですが、じつは背だけでなく胸にも貼りつける胸背(きょうはい、ヒュンベ)というもので、身を守るものというより階級を表すものと知ってびっくりしました。


しかも、上級文官は鶴(鳳凰もある)を2羽、


下級文官は鶴を1羽。


上級武官は虎を2匹、


下級武官は虎を1匹、胸背として服に綴じつけると知り、その露骨さにはびっくりです。


虎と鶴の刺繍はユーモラスで、ほほえましいとさえ思っていましたが、ほほえましいどころか、厳然たる階級を表していて、民たちを威圧するものだったのです。
私は韓国ドラマを見たことがありませんが、韓国の時代劇では、胸背が描かれているのでしょうか?
ちなみに、宮廷衣装となると、身分の高い人たちは四角ではなく、丸の中に龍などが刺繍されたものを胸背としてつけていたそうです。







 

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