1980年初頭、タイのバンコクのガソリンスタンドでは、すでに自動車にオイルを注入するポットはプラスティック製だったと思います。
ただ、田舎町に行くと、プラスティックのポットとともに、ブリキのポットが併用されているところも残っていて、ブリキ屋さんの店先には、バケツなどとともに、こんな手づくりのオイルポットも並んでいました。
持つところを太くしてあり、手が痛くなりません。
本体が小さくて、オイルを満たしても重くないオイルポットには、持ち手に、手を痛くさせない膨らみはつけられていませんでした。
手の込んだ、素敵な工夫だとは思いましたが、このときは、これが欧米のオイルポットを模してつくられたものだと、知りませんでした。
のちに、イギリスのポットや、お湯入れにも同じ工夫がされていたのを見つけました。
「あぁ、あのオイルポットの原型は欧米にあったのだ」
と、初めて思い至ったものでした。
このイギリスのポットやお湯入れを手に入れたのは、1990年代の初め頃だったでしょうか。
もともと、鉄でできたものが好き、水差しやオイル差しが好きでしたが、ヨーロッパのものにまで手を出してしまったのは、このぷっくりした持ち手に惹かれてだったのかもしれません。
決まった一か所を持つのでなく、いろいろなところを持つヨーロッパの道具にはまた、持ったときに痛くない、別の工夫がなされているものもあります。
イギリスのじょうろですが、水を入れて運ぶ時の持ち手も、水遣りの時に掴む持ち手も、鉄板を曲げてパイプのように丸くする工夫がされています。
同じくイギリスのじょうろ、こちらは、小さな町工場でつくられたものではなく、現代の大工場でつくられているものですが、やはりじょうろの重さを掌に感じないで、バランスよく持てるように、工夫されています。
持ち手は、パイプを曲げてつくってあります。
水を1ガロン半入れて重くなっても、両手で持つと安定し、手も痛くありません。
古いじょうろは室内用、新しいのは室外用として使っていますが、どちらも使いやすいものです。
さて、バケツの持ち手と言えば、木製のこんなものを、まず思い浮かべます。
これは、フランス製のバケツです。
1970年代から80年代にかけて、日本のバケツやじょうろはプラスティック全盛で、ブリキのものは巷に見当たりませんでした。そして、ごくまれに見かけても、目の飛び出るような値段でした。手仕事はすたれ、中国製のものはまだ入ってきていなかった時代です。
そんなおり、銀座のデパートのプランタンで見つけたのがこのバケツでした。
私は意気揚々と、このバケツをぶら下げて歩き、もちろん電車にも乗り、家まで凱旋したものでした。
日常使いの道具も、プラスティックで間に合わせるのではなく、好きだと思えるものを使いたいと思っていたのでした。
ところが昔は、日本には、意外と、このような持ち手のバケツは少なかったのかもしれません。
木の持ち手がついたおもちゃのバケツはいずれもヨーロッパ製です。
日本の
バケツのおもちゃにも、木の持ち手がついたものがありますが、少数派です。もちろん、ただのおもちゃですが。
そして、こちらが日本のバケツ、
持ち手は、鉄板をお菓子の八つ橋状に、外を向けて丸く曲げてあります。
小さいバケツの持ち手も、同じ加工がされています。
木の持ち手をつけるより、この持ち手の方が縁にぴったりと沿って収まるので、日本人の気性に合ったのかもしれません。
この加工方法も、実は日本独自のものではなく、イギリスのバケツなどに多く見られるものです。
たかが持ち手、されど持ち手。
こんな持ち手にも、ヨーロッパの工夫が世界を席巻している様子が見て取れます。