2019年5月30日木曜日

翻訳文庫本の表紙考

私はどちらかといえば本好きですが、読むだけでなく、本の姿かたちも含めて愛でる傾向にあります。だから、装丁の良さ悪さなどにもこだわります。
同じ内容の本でも、単行本の表紙と文庫本の表紙が違っていて、単行本の表紙の方が好きなときは、場所は取るし値段も高いのに、単行本を買ってしまうこともあります。

さて、翻訳ものだったら、その本が書かれた背景をよく知っている、原作の書かれた国の人が描いた絵が表紙や挿絵になっていることがベストですが、文庫本では、なかなかそんな本にはお目にかかれません。たいてい、日本人が描いた、日本人向けの絵が表紙を飾っています。


まずは、『ミセス・ポリファックス』(ドロシー・ギルマン著、柳沢由美子訳、集英社文庫)ジリーズです。
前にも書いていてしつこいのですが、改訂版の絵は、まったく物語の印象を台無しにしていて、残念です。この絵では、毎回生きるか死ぬかという場面に遭遇して、絶体絶命の中で機転を働かせて、奇跡的に生還するミセス・ポリファックスには、到底見えません。
第1巻(けっきょくkuskusさんにいただいたまま)も、イメージが違うと言えば違うのですが、まだましでした。


こちらは『ミセス・ポリファックス』シリーズのアメリカの本、とても雰囲気が出ています。
余談ですが、最近また、夜な夜な『ミセス・ポリファックス』シリーズを読んでいます。一冊だけにしておけばいいのに、一冊読めばついほかの巻にも手が伸びます。
どの巻もけっこうな長さ、時間の無駄遣いというか、人生の無駄遣いとはわかっているのですが、はらはら、どきどき、楽しんでいます。


『通い猫アルフィー』シリーズ(レイチェル・ウェルズ著、中西和美訳、ハーパーBOOKS、2015ー2018年)は、イギリス版『三毛猫ホームズ』シリーズといった感じの本です。
飼い主が亡くなって施設に送られそうになった猫のアルフィーは、逃げ出して旅をし、終の棲家となる住みやすい街を見つけ、そこで一人ぼっちになってしまうリスクを避けるため、複数の家庭を渡り歩く通い猫になります。
そして、その飼い主たちを知り合わせて、結婚させたり、マタニティーうつを直したり、飼い主たちが直面する「事件」を解決したりして、飼い主たちを幸せにします。
『通い猫アルフィー』シリーズの表紙は、いかにも日本人受けのしそうなぽっちゃりしたかわいい猫が描かれていますが、悪くありません。




で、原書の表紙を見ると、賢い猫アルフィーの賢さが、より出ているでしょうか?
こうやって比べて見ると、日本版の第4巻はイギリス版の第1巻の写真(イラスト?)をもとに描かれたものに見えて、できるだけ雰囲気を伝えたいと思って描いた感じが伝わってきます。


さて、古典ともいえる『赤毛のアン』の文庫本です。
何回もの引っ越しや、その後の片づけ方などで見えなくなった巻は、読みたくなったとき買い足しているので(きっとどこかに古いのも隠れていると思うけれど)、新しい装丁のものが混じっています。もっとも、新装版は表紙だけをつけ替えたのではなくて、文字を大きくしたりもしたのでしょう、ちょっと厚くなっています。右上と左下が新装版、左上と右下が古い版です。
古い版は、表紙絵作家として売れっ子だった人の絵ですが、ずっと内容と絵が違うという違和感がありました。
それに比べると、新装版はカナダのプリンスエドワード島あたりをより意識して描かれているのですが、図案化されすぎていて、薄いスープを飲んでいるようなもの足りなさも感じます。

というわけで、英語版を見てみました。
こちらは、変遷も激しいし、2010年代になって、何故かずいぶんリニューアルされていました。


上の写真のシリーズでは、1冊目の『Anne of Green Gables』は見つかりませんでした。1980年代に発行されたもので、古めかしいので、もう『Anne of Green Gables』は再販されていないのかもしれません。いかにもカントリーな感じを出そうとしていますが、アンの印象とは程遠いものに見えます。
次に、映像化(映画化?テレビドラマ化?)された写真を使用した表紙の本がいろいろ出版された時代がありました。


2010年代に入ると、カントリーの呪縛からも映像からも解放されて、もっと自由な表紙が出てきています。


しかし、右のペンギン版(2017年)なんか、ちょっと自由過ぎる気がします。


もの足りなさを補ってくれるのは、やっぱり『赤毛のアン』カラー完訳愛蔵版(モンゴメリ著、西田佳子訳、フェルナンデス・ジェイコブソン絵、西村書店、2006年)でしょうか。
原書は2000年にカナダのTundra Booksから出版され、1908年にボストンとロンドンで出版された初版原稿を忠実に使っています。
この本に関しては、ずっと前にブログでてっきり紹介したと思っていたので、ブログアーカイブを探してみたのですが、見つかりませんでした。


ローラ・フェルナンデス、リック・ジェイコブソン夫妻によるたくさんの挿絵は、読む人が持っているイメージをぶち壊すものではない、かえって膨らませてくれるような絵で、とても満足できるものです。
文庫本ではありませんが。








2 件のコメント:

かねぽん さんのコメント...

おはようございます。
どんなに中身が素晴らしい作品でも表紙の絵のせいで買う気が失せてしまうことはよくあります。
少女漫画風であったりアニメっぽいイラストの表紙の本をレジに持っていくのは、大人の男性にとってはエロ本よりも恥ずかしいものです。

さんのコメント...

かねぽんさん
そうですね。でも、最終的には中身優先でしょうか、嬉しくはないですけどね。
逆に本の素敵なたたずまいに抗いきれず買ったものの、話がちっとも面白くなかったということもあります(笑)。
あと、湿気させたり、曲げたりした本の代わりを見つけたときもほっとします。でもダメになったのも両方取っておいたりして(笑)。
私にとってはキンドル版は別ものです。