私が小さい頃を過ごした倉敷市南部の農村地帯は、当時はイグサの一大産地でした。
たくさんの農家が田んぼでイグサを育て、夏の暑い盛りにイグサを刈り取り、田んぼの一画に掘った四角いプールに貯めた泥水の中で、束にしたイグサを泥染めして、刈り取った後の田んぼや道端に広げて干しました。
イグサの刈り取りと泥染めはとてもきつい作業なので、男手の少ない家では栽培はできません。働き盛りの男手のある農家にも毎年、1人あるいは2人の日雇取りさん(出稼ぎ労働者)が、海の向こうの四国から住み込みでやってきて、2週間ほど働いて、お盆のころに帰って行きました。
食料がまだ十分でない頃だったので、夏にイグサを刈り取った田んぼは、刈り取りのあと、遊ばせることはありません。田んぼの一角に固めて植えておいた稲を分けて植えなおし、10月には、ほかの田と同じようにお米も収穫していました。
イグサ農家の納屋からは、手織機で、のちに力織機で畳表を織る音が、農閑期の間中聞こえていました。また、夜は夜で、次の年の苗にするために、底冷えのする土間に座って、家族総出で大きな株を小さく割り続ける夜なべ仕事が、ひたすら続いていました。
イグサでつくった生活用品である、模様を織り出した茣蓙、座布団カバー、縄にして編んだ買いもの籠などは、ごくごくありふれ、あふれていました。そんな環境で育ったせいか、私はイグサ製品を欲しいと思ったことはありませんでした。
だからその昔、母がイグサの籠をくれたときも、ありがたいとも思わず受け取り、どこかに突っ込んでいました。母は籠と見れば、なんでも私によこしたのです。
イグサの籠は、母が買ったとは思えません。誰かのお土産だったのか、どうして持っていたのかなど、訊かずじまいでした。
数年前からは、この籠を放っておかないで活用しようと、爪切り、指のマッサージ器、かゆみ止め、付箋など入れて、コンピュータのわきに置いています。
イグサの籠は中国でつくられたのか、あるいはヴェトナムでつくられたの(おそらくそのどちらか)かわかりませんが、輸出品にしては、時間をかけて丁寧に編まれています。
さて、話は変わって、韓国の江華島(カンファド)では伝統的に、イグサの蓋つきの籠、ワングルハプがつくられてきました。イグサ材の籠ですから気に留めなかったのですが、あまりにもきれいに編めたものを目にして、しかもさして古くはないからか値も張らなかったので手に入れたものがあります。
蓋の直径は13センチと小さな籠で、金糸銀糸と赤と緑に染めたイグサを編みこんであります。
ぐるぐると中心から編み進めたはずですが、渦巻状にならず、美しい円になっています。
そして、どうやって編むのか、本体も蓋も二重になっていて、内側は太い材で編んであるため、材がイグサなのにたわんだりせず、しっかり固く仕上がっています。
数日前に、こんこんギャラリーで会ったNさんは竹細工を習っています。このほど教室の皆さんと韓国に行き、竹細工の中心地の潭陽(タミャン)の竹の博物館にも行ってきたとのことでした。
「韓国の籠はどうだった?」
と訊くと、よかったけれど、日本の竹細工に比べると、ちょっと雑な感じもしたと、Nさんは言っていました。確かに、前に紹介した韓国の現代の竹籠も、隅々まで神経が行き届いているというよりは、量産品としてちゃっちゃとつくったという印象を受けました。
心をこめて編んだものと、心があまりこもってないものにどこに違いが出るのか? 外国でも日本でも、町の竹籠屋さんに行くと、9割がた欲しいとは思わない籠が並んでいたりします。なかなかうまく説明はできませんが、明らかに違うのです。
韓国は昔から手工芸の盛んな国でした。
かつては、素晴らしい技術を持った籠師さんたちが大勢いらっしゃったに違いないのですが、プラスティック製品や、中国やヴェトナムからの安い輸出品に負けて、あとを継いでゆく人が続かないため、籠師さんの層がどんどん薄くなっているのでしょう。韓国だけではありませんが。
江華島(カンファド)でも、高齢化によって、ワングルハプをつくる人は少なくなっているそうです。
5 件のコメント:
いずみに似てますね。岐阜では冬になるとお櫃をわらいずみに入れて保温してました。そんな事を思い出しました。
匿名さん
昔はみんなお櫃をわらいずみに入れて保温していました。
学生の時、友人と京都三条の新京極にあった安宿に泊まったら、朝、道にわらいずみがごみとして捨ててあって、当時は便利な段ボール箱も宅配便もなかったのですが、しばし拾おうかどうか迷ったことがありました(笑)。
でもこの籠は小さくて、手のひらに乗るサイズです。
匿名さん
大変です! ネットでわらいずみを見たら、安いので10万円以上、高いのは30万円もします!!!
えええっ。10万円以上ですか…うちでは冬場に藁縄を作る合間に祖父が作ってましたから。今ならそれで生活できたかも。
匿名さん
あはは、おじいちゃん、今でもわらいずみでは生活できないでしょうね。だって、お櫃を持っている人がほとんどいないから(笑)。
我が家にはお櫃がありますが、乾物入れと化しています(^^♪ 火をつけるのが簡単だからご飯は食べきれる量で炊いて、残れば冷凍、チンですから。生活がすっかり変わってしまいました。
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