2010年1月24日日曜日

ヤシ砂糖



プノンペンの市場で、パルメラヤシ(オウギヤシ、Borassus flabellifer L.)の砂糖を探しました。ところが最初に行った旧市場(プサー・チャ)には、どろどろのものを一斗缶に入れているのは見つかったのですが、固くなるまで煮詰めたものは売っていませんでした。
しかたなく、中央市場(プサー・トゥマイ)に行ってみました。そしたら、一軒だけですが、ありました。昔ながらのヤシの葉に包んだものが。
このヤシ砂糖、カンボジア、タイ、ラオスなどのお菓子をつくるのに欠かせないものです。お料理にだって、欠かせないはずです。でも、輸入物の白砂糖の方がずっと安いし、手っ取り早いので、ヤシ砂糖はタイに続いて、カンボジアでも消えつつあるようです。

左のお饅頭のようなヤシ砂糖は、私がさがしていることを知って、もと同僚のエンさんが、別の市場に走って買ってきてくれたものです。
真ん中は、やはりもと同僚で、長くカンボジアに住んでいる由美さんが、現地のNGOを支援しつつ、つくっているヤシ砂糖です。海外に売って、生産者たちがより生計を立てられるようにと、固形から、粉にしてみたのですが、粉にするにはさらに煮詰めなくてはならず、また、固形に戻す道を模索しているとのことでした。




これは、10年前に撮ったものです。ちょっと大きくて形もまん丸で、とてもきれいにできています。まあ、形に個人差があるのはしかたありません。ヤシの葉を丸めて型をつくり、それに流し込んで一つ一つつくるのですから。




今回は、農村まで足をのばせませんでしたが、これが、ヤシ砂糖つくりが盛んなカンダール地方の典型的な風景です。家に年寄りではない男性がいなければ、ヤシの樹液はとってこられません。なにせ、一本一本、登って集めてくるのですから。
ヤシ砂糖を集めている農家は、一軒で、10本から20本くらいのヤシを持っています。

でも、プノンペンに近いということで、このあたりには縫製工場がどんどん建っているということでしたから、こんな風景も消えつつあるのかもしれませんが。




ヤシの木には、一本一本、竹のはしごが取りつけてあります。これを登って、花序を柔らかくもみます。
別の日に、液を集める容器と、花序を傷をつけるためのナイフを持って登り、傷つけた花序の下に、容器をさげておきます。そして、また別の日に容器を回収するために登ります。というように、高いヤシの木には、何度も何度も登らなくてはなりません。

隣り合って生えている木では、樹上に竹が渡してあって、降りてこないでも隣の木に移れるようになっていますが、たいていは、重い道具や容器を担いで、いちいち登ったり降りたりします。
そのため、木から落ちて障害者になっている人もいます。




これが、ヤシ砂糖をとるための道具です。ただ、細くて長い、手前の竹は南タイのトランの漁村でいただいた、ニッパヤシ(Nipa fruticans)の液を集めるための容器です。
写真を撮ろうと、パルメラヤシの液を集めるための竹筒をさがしてみたのですが、どこかに入れてしまって、見当たらず、前に撮った写真を使ったので、ニッパヤシの容器も入ってしまいました。

竹筒は、表皮を剥いであります。耐久性が落ちるのですが、これに液の入ったものを10個も20個もぶら下げて登り降りするので、できるだけ軽くするのだそうです。
一軒でいうと、50から100ほどの容器を常備していますが、10年前ですら、竹の容器はプラスティックのものに取って代わられつつありました。




花序をそっと抑えて柔らかくする道具です。「これは古くなったもの。何本かあるから、持ってって」とポルさんからいただきました。雄花を押さえる道具と、雌花を押さえる道具の二種類あるのですが、これがそのどっちだったかは、忘れてしまいました。




そのとき、「切れそうになっているから」と、古い縄を取り除き、パルメラヤシの葉柄を割いたもので、ちゃっちゃっと結び直してくれました。その、手早くて、できあがりの美しいこと。縄はぐるっとまわしているだけではなく、二本の木を通しているものもあり、全体では進入禁止マークのような形をしているのですが、ぐるっとまわして見ても、縄の端、あるいは結び目というものが、全然見えません。




そしてこれがナイフ。独特の形をしています。

集めた液は女性たちが大きな鍋で、一日煮詰め、どろどろの砂糖にします。固形にするには、さらに煮詰めます。
今では、カンダール地方には、竹筒にする竹も、はしごにする竹もなく、液の酸化を防ぐためのチップにする特別の木(フタバガキ科の大木を切り、小さくきざんで使います)もなく、煮詰めるための薪にする木もありません。それらを全部別の地域から買っているので、重労働の割には収入は微々たるものです。

ヤシ砂糖は、木が成長してから数十年採れ続けますが、砂糖を採るヤシの木の葉は、絶対に切りません。切ったりすると、砂糖が採れなくなるのです。そのため、細工物にするためのヤシは、別に植えています。
パルメラヤシは、葉、葉柄、幹、すべてが有用です。葉は、割いた葉柄を挟んで並べて縫って、屋根材にします。下から少しずつ重ねながら葺くと、屋根ができあがります。また、葉を編んで、ござや筵などもつくります。




上の箱は全部ヤシの葉で編んだもので、何か買ったらこれに入れてくれる、つまり包装用の籠です。右奥の籠はポルさんがつくってくれました。村の人はみんな、こんな籠がすっすっと編めるのです。
赤いのは、最近出てきた、箱も中も売るという、おしゃれなものです。ヤシ砂糖が入っていました。
左の薄いのは、以前、布を買ったときについてきた籠です。




包装用の籠は雑なものも多く、ほとんど捨ててしまいましたが、きれいに編んであると、なかなか捨てられません。
カンボジアの絹織物、ピダンに乗せてみました。




ロールペーパーのケースもかわいいですが、ちょっと小さい。左は古いもので、ていねいなつくりです。




そして、私の好きなのはこれです。葉柄を割いてつくった稲を束ねる紐で、農家では、稲刈りの前にはこの紐をたくさんつくって、高床の家の床下にぶらさげます。「ああ、収穫も近いなあ」という、風物詩です。硬そうですが、水に浸すと柔らかくなります。
日本では、稲はその前の年の稲わらで束ねますが、カンボジアでは稲わらはたいせつな牛の飼料なのです。これを、ポルさんに、「欲しいなあ」と言ったら、笑いながらくれました。懐かしい思い出です。

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