2016年10月17日月曜日

楽しい週末

週末に、友人の息子シャントヌが遊びに来ていました。
彼とは、彼が生後数ヶ月のときに初めて、南インドで会った関係ですが、あれから四半世紀の時間が流れ、25歳の青年に成長しています。

シャントヌは、オランダの大学院で二年間農業を学んだあと、日本かインドで仕事につくはずでした。
ところが、日本に帰国後、大学時代の先生の紹介で、ドイツの学校の研究プロジェクトに参加することがばたばたと決まり、来月から三年間ドイツに行くことになりました。博士号が取れ、その間給料も出るという、願ってもない話です。
彼は、ヨーロッパで農業を学ぶことの限界を知りつつ、チャンスが与えられたので、もう少し学んでみようと決心したようでした。


彼のオランダでの体験談には興味深い話がたくさんありましたが、その一つに、大学の先生の一人の研究課題が、アフリカから奴隷としてアメリカ大陸に連れて行かれた人たちが、アメリカ大陸の植物をどう「発見」して、どう馴染んだかというものがありました。
さすが、植民地を多く持って、三角貿易にもかかわったオランダ人の末裔の発想することです。

奴隷として連れて行かれた人たちの中で、植物の知識があった人は、降り立ったアメリカ大陸で初めて見た植物でも、食べられるか食べられないか、薬草か毒草かという勘が働きました。
そんな人たちは、隙を見て逃げても生き延びることができると確信していて、事実逃げた人もいたそうです。
また彼らは、持ってきたり手に入れたりした野菜の種を蒔いて育て、食生活を豊かにして、飢えることなく生き延びてきましたが、植物に対する知識のない人は、やすやすと奴隷にされ、逃げることもできず、死んでいきました。

マレーシアのタマンネガラ国立公園

その話を聞いて、思い出すことがあります。
1990年代の初めに、タイ人たち三人を連れてマレーシアのサラワクの熱帯林の中を二時間ほど歩いたことがありました。歩く予定で行ったのではなかったのですが、目指す村が川べりから内陸に移動していたのです。

サラワクに一緒に行ったタイ人は、一人の同僚と、ブリラム県でユニークな村づくりをしている村長さん、そして英語とタイ語の通訳をお願いした地方都市の大学の先生という構成でした。重い荷物を持って、踏み固めただけの森の中を歩くのですから、タイ人たちにとっては結構大変でした。とりわけ、海外が初めてで、歩くことしか交通手段がないことをを想像もしていなかった村長さんは、歩きなれたサラワクの人について行くのがとても辛そうでした。

さて、ふと見ると同僚のKが、道端のきのこを採って、そのまま食べています。
彼にとってサラワクは生まれて初めての地、植物に造詣が深いと言っても、赤道直下の熱帯多雨林と、タイ東北部のような乾季のある乾燥林とは植生が違います。
「わぁ、やめてよ。毒きのこだったら死んじゃうよ」
と言うと、彼は、
「これを食べて死んでしまうようなら、僕はとっくに死んでいるよ」
と言って、全部食べてしまいました。もちろん、彼は何ともありませんでした。

そのとき私は、第二次大戦中、たくさんの日本兵が密林の中で餓死したことを思いました。
熱帯林に足を踏み入れる前は、私もそれを哀れなことだったと認識していましたが、じつは熱帯林は餓死するところではないのです。食料の宝庫であり、薬草の宝庫なので、植物の知識と、さらに動物を獲る知識があれば、熱帯林の中では、人は十分に生き延びらます。
現に、横井正一さんをはじめ、日本人でも生き延びた方もいらっしゃいました。また、たとえ、自分に植物の知識がなくても、そこに住む人たちと人間関係をつくれば学べることでもあります。
人が生き延びるためには、まず自然との関係がたいせつであり、同時に人間との関係もたいせつなのです。

現在のサラワク
   
生まれたときから、大都会で食べるものをお金で買う生活を送って来た人は、自然と切り離されているので、土や昆虫などの自然と馴染めません。しかも、コンピュータや携帯電話、スマートフォンなどの発達で、機械とは馴染んでも、人間との関係も希薄になっています。
でも、生きることの基本は食べることです。それが自分の手の中にあるか、まったく人の手にゆだねてしまっているかでは、生きる自信が違ってくるような気がします。


昨日、「八郷暮らしの実験室」の面々などが中心になって、「八豊祭(やっほうさい)」が開催されました。
お天気に恵まれ、歌や踊りあり、無農薬野菜の美味しい食事あり、落語あり、山里暮らしの講演あり、と濃い一日でした。
 
 
馬喰町バンドのわらべ歌に乗せて、88歳の北川馬骨さんの書のライブもありました。
これからの、よりよい生活をみんなで考えた日でもありました。







2 件のコメント:

昭ちゃん さんのコメント...

私に比べて
北に南に極限の戦闘や抑留を体験した友人がいたので
貴重なお話を有難うございます。

さんのコメント...

昭ちゃん
人間は、自然をよく見る好奇心がないと損しますね。
かくいう私も、一人で熱帯林に取り残されたら、ほとんど何もできないで餓死する口です。現地の人と歩くと、食べられる果実を食べたり、水を含んだ木を切って水を飲んだり、蝙蝠を捕まえたり猿を吹き落として焼いて食べたり、楽しいことこの上ないのですが。