この春から夏にかけてに読んだ本、『はたらくことは生きること』(石田榮写真集、羽鳥書店、2016年7月)、『ウィルソンが見た鹿児島』(古居智子著、南方新社、2016年5月)、『昭和の消えた仕事図鑑』(澤宮優文、平野恵理子イラスト、原書房、2016年4月)です。
どれも、しばらく前を知ることによって、いまを考える本でしょうか。
『はたらくことは生きること』は、昭和30年前後の高知の働く人を写した写真集です。
『筑豊のこどもたち』の土門拳ほどの鋭いまなざしは感じられませんが、優しいまなざしで、働く人たちを写しています。
洗濯 |
その多くは、人が風景に人が溶け込んでいるような写真でしたが、
一対一のとき、写されている人と写している人の心が通い合っているのが感じられます。
重い荷物を置いて一休み。
きつい労働なのに、働くことは確かに生きることだと感じられる、満面の笑顔が素敵です。
『ウィルソンが見た鹿児島』は、植物ハンターとして、1914年から1919年まで、二回来日したアーネスト・ヘンリー・ウイルソンの足跡をたどった本です。
ウイルソンは、当時の植物ハンターの手段であった細密画ではなく、カメラという最新の機器を駆使して、精力的に自然や樹木などを記録しました。
この本は、その写真をもとに、当時の撮影現場を探しあて、新しく写した写真と、比べています。
外国向けに一冊で済むように英文も併記されていて、面白い試みだとは思いますが、学術書とは言えない、かといって一般書としては読みにくいと、かなり中途半端です。とくに、レイアウトが古臭く(デザインされていないのか)、紙質が写真を美しく伝えるものではないのが、とても残念です。
また、 古い写真と比較させるためにも、現代の写真は渾身の力を込めて、美しい写真を撮ってもらいたかった。比べる意味がないような写真が多かったと思いました。
『昭和の消えた仕事図鑑』には、115種の仕事が載っています。
よく知っている仕事もあれば、昭和の人間である私がまったく知らない仕事もあります。
ショバ屋 |
江戸時代から続いていたような仕事もあれば、世相を反映して、ほんの短期間で消えた仕事もあります。
女衒 |
社会の裏の仕事、パンパン、女衒、奉公市なども載っているし、トップ屋とか、損料屋、ドックかんかん虫、よなげ師、つぶ屋など、私が存在すら知らなかった仕事もあります。
富山の薬売りはたいてい男、毒消し売りはたいてい女だということも知りませんでしたが、明治34年には富山市の人口が60,000人で、うち薬売りを生業として全国を歩いていた人が、8,000人もいたなんて、びっくりしてしまいました。
箍屋 |
オレオレ詐欺のように、いまも形を変えて生き残っている仕事もありますが、箍(たが)屋、鋳掛屋、ラオ屋など職人は、もう出てくることはないでしょう。
なかなか楽しめた本でした。
12 件のコメント:
一つ一つの説明が難解ですが全部わかるつもりです。
ロバパンは上部にあるスピーカーから流れる唄で
飛んで行きました。
今は騒音とか、町の音が無くなりました。
昭ちゃん
ニコヨンくらいは私も知っていましたが、ドックかんかん虫と言われてもわかりませんよ。こうしてみると、ものは使い捨てで、人がやっていたことは全部機械がやってしまう世の中になってしまいましたね。
確かに今は音のない時代でしょうか。かつて、建設現場では、太いパイルを大きな音を立てて打ち込んでいましたが、いまは音もなくするすると何十メートルも入っていくようです。
基礎に打ち込むパイプはエヤハンマーの盛大な音が
響きますからねー
「ラオ屋」の物悲しい笛の音、
物売りの声まで消えてしまいました。
昭ちゃん
それはよかったですね。私はラオ屋の存在は知っていますが、写真も見たことがありますが、実際に出逢ったことはありません。昭和40年くらいまでいたとか、出逢ってみたかったです(^^♪
この本に載っていた傷痍軍人はずいぶん遅くまでいましたね。結構若くて、どう計算しても戦争に行っていない世代(笑)、もう少し地道に生きたらいいのにと、横目で見ていました。
春さんは話題が広いなー
ついつい打ってしまいますので読み流してね。
「羅宇屋」
メル友の江戸研究家の姐さんが親友です。
たまたま送った羅宇屋の写真に家の近所がバックに写り
喜ばれました。私は子供の頃の東京話ですが、
話によると千住でも昭和45年頃まで見たそうです。
「傷痍軍人」は昭和30年代列車内での営業で
軍歌を歌いお金を、、、40年代には祭りのたびに、
多分香具師の一種「泣かせ」でしょー
昭ちゃん
この本によると、平成12年に最後の羅宇屋が廃業しましたが、最近は数人が復活させているそうです。復活と言っても、キセルでタバコを吸っている人なんて見たことないのにね。
また、傷痍軍人は、平成に入ってから姿を見かけなくなったそうです(笑)。
今は懐かしい夜店の縁日や神社の祭りなどに
登場する啖呵売などは言葉を楽しむも。ので買った物を
とやかく言うのは「野暮の骨頂」っと父はよく言ってました。
将棋や囲碁もさくらにつられて手を出しますからね。
昭和20年代小倉でいわゆる「泣かせ」の一部始終を見たことが
ありすぐ人がたかる時代ですね。
昭ちゃん
この本には香具師として、大ジメ師、泣きばい、さくら、大道講釈、つぶ屋など載っていました。中でも大ジメ師は話術の天才で、笑わせ、泣かせ、感心させて買わせたのですが、「道路交通法」や「詐欺罪」が施行され、大道芸がやりにくくなって消えていったそうです。
昔はみんなで小銭を稼ぎましたが、いまは振り込め詐欺などで大金を稼ぐ時代ですね。バナナのたたき売りのだみ声は、今でも耳に残っていますが。
カンカン虫は乾ドックに入れた船体の塗装のため
叩いて錆をおとしますが、
その人たちの呼称です。
いろいろ載っていますね、
風呂屋の三助や立ん坊・でいでいーもあるでしょー
こんな本があるんですね、「イラストで見る昭和の消えた仕事図鑑」おもしろいです。私は昭和40年生まれですが、何が載っているのか気になって、今、思わずアマゾンで購入してしました(笑)写真にある女性の笑顔、重労働であってもその努力が実る時代を表しているように感じられます。春さんのブログは、ほんとにいいなあ~。大好きです。ほっこり。
hattoさん
仕事図鑑のイラストは、なかなか味があり、データも載っているし、エピソードみたいなのも載っています。楽しめますよ(^^♪
「電報配達」の電報文字というところには、「ヒイチニチト クルシクナリヌ アタマイタシ キミノタスケヲ マツミトナリヌ」という石川啄木のお金の無心の電文が載っていました。味があると言っても、これでは料金が高いですよね。私の友人たちは生活費がなくなると、故郷に「カネオクレ」とだけ打っていました(笑)。
私もこの女性の笑顔を見て、毎日達成感があったんだろうなと思いました。お弁当を食べている男性も嬉しそうでしょう?ご飯とお汁だけのお弁当かもしれないけれど。
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