骨董市で、あまやさんが、民族人形をめちゃくちゃたくさん広げていました。
木の人形あり、トウモロコシの皮の人形あり、ラフィアや毛糸で編んだ人形あり、ほとんどが東西冷戦時代のロシアや東欧のもののようで、民族衣装をつけた人形もたくさんありました。
「あら、今日はいつもと全然感じが違うのね」
「そうかい?いつもと同じだよ。テーマは民族人形だけどね」
他の骨董屋さんの話では、あまやさんは古伊万里などにとても造詣が深い、すぐれた骨董屋さんだそうです。でも、ちょっと見にはその片鱗もうかがえません。
いつも、デッドストックやらジャンクやら、ほとんどゴミに近いようなものを、同種大量に持っています。
例えば、花模様つきの琺瑯鍋ばかりを、これでもかと並べていたと思ったら、次の時は錆びだらけのワイヤーバスケットばかりという具合です。
では、鉄ものばかりかと思っていると、いきなり柿渋を塗った、着物の型染めの型紙を大量に並べたりしています。
焦点は全然定まりませんが、本人はいたって陽気です。
さて、人形は誰かのコレクションだったのでしょう。
買った年と場所を裏に書きとめてあるものも多く、中には日本で買ったものも混じっていましたが、現地で買ったものがほとんどです。
私はすっかり腰を落ち着け、端から端まで見せてもらいました。ただ、残念だったのは、写真を撮らせてもらうのを、そのときはすっかり忘れていたことです。
我が家の展示室の状態を考えれば、これ以上嵩張るものを増やすわけにはいきません。それでなくても、ものは増える傾向にあります。というわけで、大きめの人形には目をやりませんでした。すでに類似したのを持っているものも、迷いましたが忘れることにしました。
そして、数点の小さなものばかり、申し訳ないほどのお値段で、いただいてきました。
日本の農民人形に通じる、写実的な木彫りの娘です。
台座がないのに、安定して立ちます。高さは14センチです。
靴底には、「1984年7月、Grindel wald」と記載してありました。
グリンデルヴァルトは、スイスのアルプスにある、ベルン州の山岳の村です。では、着ているのはそのあたりの民族衣装かと、ネットで検索してみました。
コンピュータ検索時代って、なんて素晴らしいのでしょう!
すぐに、「スイス26州の代表的な民族衣装」という写真が見つかりました。
まぎれもなく、中段の右から四番目と同じ衣装を着ています。説明には、ベルン州の衣装と記してありました。
肩の上に見える黒いのはスカーフのようですが、後ろ見ごろの黒い部分と、胸の前の刺繍された布と、それとエプロンの関係は、ちょっとどうなっているのかわかりませんでした。
ドイツ(旧東ドイツ)のザイフェン村のクルミ割り人形です。
今でも、まったく同じものがつくられていて、ドイツのクリスマスには欠かせないものです。
小さい轆轤(ろくろ)細工のクルミ割り人形は、とても威厳があります。
一人では寂しかろうと、やはりザイフェンの兵隊さんにも、一緒に来てもらいました。
ほかにもコックさんや給仕さんなど、ザイフェンでつくられたと思われる木の人形たちがいましたが、見送りました。
もちろん、8.5センチのミニチュアですから、クルミを割ることはできません。
それでも、背中の棒を上に押しあげてみると、
幅3ミリほどの口を、
「かぁぁっ」
と開きます。愉快です。
最後は小さな楽隊です。
派手なズボンとコートは針金でつながっているので、ぷるぷる動き、横を向いたりもします。
バイオリンやチェロには、手のつもりの玉がついていて、その玉は身体からは離れているのですが、十分手に見えます。
裏に、「Polen(ポーランド)、クラコフ(クラクフ)にて、1975年」と書いてありました。高さ6センチです。
木の細工も彩色も素晴らしいもので、帽子には刺しゅう糸でつくった飾りがついています。
どの人形も、まったく色褪せていません。 埃もついていません。きっと、飾らないで大切にしまってあったものに違いありません。
というわけで、我が家としては特別な待遇ですが、ガラスケースの中に収めました。
あまやさんのおかげで、楽しいヨーロッパの手仕事をかいま見たひとときでした。
4 件のコメント:
ステキ素敵すてき!!!スイスの人形、なんて素敵なんでしょう。スイスの人形はこれひとつだけだったのですね。いろんな州のがあったら私はきっと全部欲しくなるでしょう。
のらさん
いろんな州のがあったら素敵だけれど、木彫りはあの州しかつくれないのかもしれない、もちろん一つだけでした。
あとあったのは、いわゆるお土産人形みたいな、雑なこけしに手足がついたようなものだったような気がします(もう忘れている、笑)。ロシアのからくりおもちゃもありました。
値段が気になったから控え目に選んだら、とってもお安かった。でも見るのに時間がかかったし、その日は忙しい日だったので、帰ってしまいました。後で考えたら、木彫りで、手足が動いて、布の服を着ている男の子と女の子、買えばよかったなぁと思いました。でも、同じ工房でつくったのを持っているんだけれど(笑)。あの骨董屋さんには、「次回」はありません。
ドイツのこけしおばあさんからもらった木彫りの動物たちが我が家にもどこかにあるのですが、何だか可哀そうなことになっています。自分で買ったことのある木彫りの人形があるのですが、彩色はなくまったくの白木です。日本の赤子八幡様のように赤ちゃんを布でぐるぐる巻きに着つけた風俗をモチーフの人形で、一時期こけしに似ているような気がして向こうへ行くたび入手したものですが、最近どこにしまってあるのかわからなくなりました。くるみ割り人形とか煙吐き人形は種類がものすごくありますね。厳密に見ていないのでわかりませんが、エルツ山脈のあるサクセン州がまだ東側だった時代と現在とでクオリティーの差などないのでしょうか。東ドイツの時代でもマイセン磁器なんかと並んでエルツ山脈の木地玩具は国の重要な収入源だったと思うので、しっかり作られていたとはいえ、色剤とか皮革とか羽毛なんかなどどうだったのでしょうか。ドイツへは14回行ったことがあるのですが、向こうへ行くと移動するのが面倒になり近くの畑や森でスケッチしたり散歩したりばかりで、今となってはもったいないことをしました。ザイフェン
へも行きたかったですが、統一後、ザクセン辺りは東洋人や外国人への反感が強いから危ないというイメージがあったので行かなかったのも理由のひとつでした。いつからか中国製のくるみ割り人形のコピー品まで出てきて変な感じがしました。ザイフェンへはいけませんでしたがチューリンゲンのソンネベルクへと国境を挟んだノイシュタット アン コーブルクへは行きました。日本の伝統的な張り子とは違いますが、パルプ粥で成形するサンタさん風の起き上がりこぼしを作ってました。買えばよかったと後悔しています。
いまどきさん
ひゃー、そんなに何度もドイツにいらしたのですか!土人形のある中国、ルーマニア、メキシコなどだったら納得ですが、ドイツとは。きっと、こけしおばあさんと意気投合して、彼女がいたから訪ねていらっしゃったのでしょうね。
クルミ割り人形については、私の推測です。入手したクルミ割り人形は、並んでいた他の人形たちから考えて、冷戦構造崩壊以前のものだと思われます。そして、今も木のおもちゃを扱うネットショップなどで、クリスマス時期になると、クルミ割り人形が売りだされ、大小いろいろありますが、あれと瓜二つなのがあり、しかも高さまで同じです。ただ、貼りつけてある髪の毛やひげの素材がちょっと違うかという程度。そのことから考えて、クルミ割り人形のミニチュアは、まったく同じものがつくられ続けているのではないかと、思いました。
エルツ地方の木のおもちゃについては、ドーナツをつくって切るものにしても、そうでないものにしても、塗料などは冷戦時代とどう変わっているか、よくはわかりません。ただ、おもちゃだけでなく、台所道具などかなりのものが、コピーだけでなくヨーロッパでデザインして中国でつくられるようになって、エルツスタイルのものも中国でつくられましたが、塗料が違うのかどことなくおかしい感じがして、あまり定着していないというか、中国産は廃れたというか、相変わらずザイフェンが頑張っているような印象があります。あのあたり、木地師さんや塗り師さんの裾野がすごく広いんでしょうね。
しかも、エルツ地方は冷戦構造崩壊後、つくり方を大量生産に向くようにしたのか、昔より値段が安くなった(安いものが多くなった)印象もあります。
ドイツの木のおもちゃづくりの底力はそれにしてもすごいです。現地に行けば、オストハイマーなどのように洗練されたものだけでなく、もっと土着的で魅力的なおもちゃがいっぱいあるのでしょうね。行ってみたくなりました(笑)。
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