2019年1月13日日曜日

水揚げ

先日、コピー用紙などを入れる棚をつくったとき、まず入っていたものを取り出すと、紙類の一番下に、写真がいっぱいに入った紙袋がありました。
あとで片づけようと、中も見ずにデスクの下に置いていましたが、寒くて外の仕事が億劫な昨日、その紙袋の中を片づけようと見ると、夫管理の写真でした。
「整理するから、ちょっと見てくれる?」
「忙しいからダメダメ。全部捨てていいよ」
夫は、このところM+M家の設計で、忙しくしています。
見ずに捨てるわけにもいきません。


結局、私が目を通す羽目になり、勝手に少しだけ選んで取っておくことにしました。
1980年代から90年代前半の写真で、シンポジウムなど集会の写真が主でしたが、中には懐かしい写真もあり、興味深い写真もありました。


これは、夫が初めてヴェトナムに行った、1987年ごろの写真、低い用水や池から高い田んぼに水を入れる、水揚げ道具を見せてもらっています。

私は、この籠を使って実際に田んぼに水を入れているのを何度か見たことがありますが、列車とか車などの車窓から見たように記憶しています。一度くらいは、カンボジアで、目の前で見たかもしれませんが、記憶はごっちゃになっています。

夫の写真の中に、この籠を使っている写真もないかと、気にしながら整理していると、ありました。


田んぼでないところですが、実演して見せてくれています。
長い紐を二人で持って、息を合わせて籠をブランコのように振り、後方の水をすくっては、前方の田んぼにぶちまけます。
この写真で紐を持っているのは、薄緑のシャツとピンクのシャツの二人ですが、なんということ、手前のおじさんが邪魔です。
当時は、農村に行くには必ず役人がついてきました。このおじさんは役人に違いありません。


当時、ヴェトナムはまだ、西側には門戸を開いていなくて、北ヴェトナムのハノイ近郊には、こんな寒村がありました。

『たはらかさね耕作絵巻』

中国に倣って大名の息子などに見せるために描かれたという『俵かさね耕作絵巻(年代不明、室町時代から江戸時代初めのころ)には、ヴェトナムと同じような籠を使っての水揚げが描かれています。日本でも同じものが使われていたということは、籠のルーツは中国なのでしょう。
右の、4人で踏んでいるのはやはり水を揚げる竜骨車で、これも中国ルーツです。

『Museum of Folk-Culture』より

田んぼに水を入れるには、一人で使う、別の道具もあります。これは、使っているのを間近で見たことがあります。
水をすくっても入れられますが、ネットで素敵な写真を見つけました。


ビルマの写真で、足をうまく使っています。
これだと、肩や腕に水の重さがかかりません。右腕で柄を引けば、紐がついているので籠は自然に水の中に入るのでしょう。

竜骨車、『Museum of Folk-Culture』より

やはり車窓からですが、タイで長くて大きい竜骨水車を見たことがあります。


本で、タイ中部では竜骨車を使っていることを知っていましたが、まさか当時(1980年代)も使っていて、見ることができるとは、思ってもいませんでした。
のんびり走る列車をありがたいと思いながら、一人で感動しながら、見えなくなるまで、いつまでも眺め続けたことを思い出します。

水を低いところから高いところに入れる知恵はいろいろありました。

『たがやす』(須藤功編、弘文堂、1994年)より。秋田県横手市1958年

私が小さいころ、ポンプと発動機で水揚げする人もいましたが、私の祖母も含めて、多くの農家は水揚げ水車を使っていました。
この写真でも、学校から帰った、あるいは登校前の子どもが水車を踏んでいますが、家族交代で踏んだものでした。
これは、用水路が狭いので小さな水車を使っていますが、祖母の家にあったのは、水路の幅や高低差に合わせた、もう少し直径が大きいものだった気がします。


踏み始めだけ、水の抵抗がなくてから回りするので、支えにつかまって落ちないようにすれば、後は程よい抵抗があり、重くはなく、子どもながら無心になれる楽しい農作業でした。




2 件のコメント:

昭ちゃん さんのコメント...

面白い貴重な写真ですね、
戦後九州で初めて見た風景で田舎のない
私には驚きです。
ダビンチの絵の中にスクリューを利用して
高地に水を揚げる絵がありますが
電気が来れば全て解決でしょー

さんのコメント...

昭ちゃん
電気に頼っていると、電気が来なくなったら、なすすべもなくお手上げですよ(笑)。
アンコールの測量機器もないのに、わずかな高低を利用して水を高度に利用する力といい、水揚げの技術といい、人が自分の手でいろいろ工夫してきたことに、驚いてしまいます。
八郷には、まだ水車をつくったり修理したりする方がいらっしゃいますよ(^^♪
消えるのは簡単ですが、技術を次世代に伝えるのは至難の業ですね。