2019年1月20日日曜日

ドイツの職人の衣装


ドイツの方と結婚されてドイツに住んでいらっしゃるM.Aさんが、『Trachten der Berg=und Huettenleute』という本を一時帰国の時に持って帰られ、送ってくださいました。
ドイツの山(鉱山)に住む、昔の職人さんたちの衣装の本です。
本は1954年に出版されていますが、M.Aさんが私のために紙箱に貼ってくださったらしいラベルには、1957年、西ドイツのGHH社に出張のおり、貰ってきたものと記されています。
ちなみに、GHH社とは、ルール地方の町オーバーハウゼンの、製鉄業の中心を担ったグーテホフヌングスヒュッテ社のことで、日本の近代製鉄業とも深い関連を有しています。

敗戦後10年も経っていないドイツで、山(鉱山)に住む労働者たちの服装を描いた豪華本がなぜ出版されたのか、1957年に西ドイツに出張されてGHH社からこの本を貰ったM.Aさんゆかりの方はどなたなのか、そして、由緒ある古い本をM.Aさんがなぜ私にくださろうと思ったのかなど、すべては謎ですが、本が手元にやってきました。


箱の中には革表紙の、模様が刻印され、金で装飾してある、ヨーロッパ独特の装丁の本が入っていました。



開いてみると、本と絵は別になっていて、絵は26枚あり、一枚一枚がばらばらになっています。額装もできるようにとの配慮でしょうか。
当時のドイツのカラー印刷技術がとても発達していたのがわかる仕上がり、厚手の画用紙のような紙はとても立派で、色も大変美しく印刷されています。
日本のカラー印刷の技術は、1960年代に入ってもまだまだでした。


絵を収めている折り返しの部分や、裏表紙にはすべて麻布を貼ってあります。
M.Aさんが、何枚かについては、本の中の小見出し部分に鉛筆で日本語を書きつけてくれていましたが、本文はすべてドイツ語なので残念ながら詳細はわかりません。ただ、服装は1830年前後のもののようです。もしかしたら、その時代に描かれた本(絵)を複製したのかもしれません。ちなみに、1830年代は歌川広重と同時代です。
本が出版された当時は、ドイツ各地については知りませんが、東ドイツのエルツ地方などでは、とっくに鉱物資源は掘りつくされてしまっていました。


説明書きを見なくてもわかるのは、炭鉱夫の作業着です。
首から、生きたカナリアを下げています。

1928年。カナリアを手に持つ炭鉱夫

カナリアは、無臭でも危険な一酸化炭素などの毒ガスが発生すると察知し、さえずるのをやめるので、鉱山の坑道に入る人の必需品でした。
今では探知機を使っているようですが、オーム真理教事件の捜査の時も。捜査官はカナリアを使っていました。

この本に収められている絵のほとんどは、パレード(お祭りか?)の時の衣装で、作業着は数枚しかありませんでしたが、パレードの衣装の絵を見ると、1800年当時、ドイツで鉱物は貴重なもので、鉱山で働く人は国の誇りだったらしいことがわかります。


ザクセンの炭鉱労働者が、パレードの時に着た服装です。
ザクセンはドイツの東端にあり、南はチェコ、東はポーランドと接しています。エルツの北です。


山の鍛冶屋さんの、パレードの衣装。


山のレンガを積む石工さんの、パレードの衣装。


冶金屋さんの作業着。
上三枚の写真のエプロンは、動物の革でしょうか?


そして、冶金屋さんのパレードの時の衣装。


金属を水銀と化合させ、アマルガムをつくる職人さんの作業着。


そして、アマルガム職人のパレードの時の衣装。


こちらは、若い藍染屋さんの、パレードの時の衣装です。


そして、藍染屋さんの長老の衣装。
藍染屋さんは藍の衣装を着ているのが面白いところです。
しかし、これまでの、職人さんたちはみんな袖がゆったりしている着やすそうな服を着ているというのに、長老は腕で切り替えてあるというものの、わりとぴったりした袖の服を着ています。
長老にこそ、ゆったりした服を着せてあげたいものですが、長老と言っても、もしかしたら50歳くらいかもしれません。

というわけで、その絵の一部を紹介しましたが、他にも橋を架ける職人さん、精錬工、救助従事者などの、いろいろな職業の人の服装が紹介されていました。もっとも、どれもパレードの時の衣装です。

日本では1900年代になっても炭鉱の中ではふんどし一つで働いたというのに、それに比べると1800年代のドイツの鉱山の服装は優雅に見えますが、実際はどうだったのでしょう?

橋づくり職人の長老

背景に鉱山や煙が描かれていたりして、服装以外にも楽しめますが、この絵には、足元に一株のタンポポが描かれていました。






2 件のコメント:

昭ちゃん さんのコメント...

春姐さんカナリヤの話は昔話とばかり思っていたら
サテアンでも使用したのですね、
地下3000メートルの現場で閉山まで20年働きましたが
ガスや重圧の世界です。
平常はカンテラ式やプリズム式の測定器ですが
突然噴き出すガスでは全員一蓮托生なすすべはありません。
水没と一緒です。
 炭鉱話も「似非語り部」が多いので
ご注意下さい。
これは救助隊の服装です。

さんのコメント...

昭ちゃん
そうか、昭ちゃんの頃もカナリアは使われていなかったのですね。オームの捜査の時は、先頭の警察官がカナリアを持っている写真が残っています。欧米には「鉱山のカナリア」ということわざもあるようですね。身を捨てて大勢を救うときに使われるみたい。
えぇぇ、救助隊の服装ですか?他に晴れ着ですが救助隊の服装というのがありました。どんな鉱山だったのでしょうね。エルツ地方は、今では副業にしていた木工の町になっていますが。