犬のうなぎが、居間で吠えていました。
なにごとかと台所の方からのぞいて見ると、座布団にくつろいでいる猫のトラに向かって吠えているのです。めったにない光景でしたが、そのままにしておきました。
しばらくしても、ときおり吠え、うなぎはトラのところから離れようとしません。
「なんだ、なんだ」
と腰を上げて見に行くと、トラが右耳の前から血を流していました。
さっそくK医院に電話して、診てもらうことになりました。
トラを入れるケージを引っ張り出すと、うなぎが心配そうに見ています。
「うなぎ、一緒に行く?」
うなぎは、喜んでついてきました。
「古い傷の、中が直りきってなくて膿んだんだな」
耳の前の小さい傷は、私が発見した時はもうすっかり乾いていたので、診てもらいもせずそのままにしておいたものです。
「治療しないと何度でも膿むから、中に薬を入れる治療をするよ」
最近は、飲み薬の代わりに、傷口に入れておくと二週間効き続ける抗生物質ができて、直りは以前より確実になったそうです。
でも、それを傷口に打ち込まれるときには一瞬痛いということで、トラは念のため猫袋に入れられました。
猫袋はファスナーを閉めるのもやっとの小ささです。
いろいろなサイズがあったので、
「これ、小さすぎません?」
と聞いてみました。
「小さいくらいがちょうどいいの。猫はね、この袋がけっこう好きなんだなぁ」
「そうかなぁ」
トラの屈辱を尻目に、やっと袋に収まったところを記念撮影です。
そのあと、私は外に出され、トラがぎゃっと言うのを待合室で今か今かと待っていました。
ところが、トラがたいして叫びもしないうちに、K先生とKちゃんが大騒ぎしているのが伝わってきました。
「わぁ、トラちゃんにやられちゃった」
「Kちゃん二日続きじゃないか。臭い!」
私は扉の外から声をかけます。
「終わりました?」
「終わったよ。トラちゃんが盛大にやっちゃったよ」
中に入ってみたら、トラがおしっこを漏らしていました。
「うえっ、申し訳ないです」
「いいの、いいの」
とらは、三年前に原発事故で避難したときのホテル暮しでも、粗相をしたことがありませんでした。今回の治療はよっぽど痛かったのでしょう。
「まあ、麻酔なしだったからねぇ」
人間だったら、盛大に文句を言うところでしょうか。
トラの右耳の下に白くて細い管が見えます。これが入れた薬の先端で、入れた二日後(明日)に抜かれることになっています。
管を入れたままで痛いのか痛くないのか、襟巻ですっかり元気をなくしたトラを、うなぎは気にしていて、つかず離れずです。
それにしても、うなぎはトラの異変をよく見つけたものです。
外で、余所の猫にトラが唸ったりした時には、うなぎは狂ったように吠えて駈けつけます。トラが大切な仲間だと思っているのでしょう。
ところが、トラときたらうなぎが廊下を駈けてくるときはいつも、さっと物陰に隠れておいて、いきなり飛びついて、うなぎの肝をつぶさせます。
まったく、うなぎの心トラ知らずです。
エリザベスカラーをつけたままでは、トラが犬猫出入り口を通り抜けることができないので、その日のうちに取り外しました。なんとか、傷口を手でひっかいたりしてはいないようです。
トラは今日も元気がありませんが、あと一日の辛抱、明日は管が取れます。
2 件のコメント:
賢い犬君ですね。
うちの猫も耳の前をよくひっかいていて、かさぶたができたりしています。気を付けないと…。うちにはそのように賢い子がいないので。
karatさん
うなぎはいざとなるとトラの味方ですが、いつもは必要以上に恐れて、「なめさせて」とトラが近寄っても、迷惑そうに逃げてしまいます。だからトラもじれて飛びついたり、抱きついたり(笑)。
猫の傷は表面は乾いても中が膿むことはよくあるらしい、気をつけてください。
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