2015年2月6日金曜日

ガルディーナの木人形

『The World of TOYS』、Josef Kandert著、HAMLYN社、ロンドン、英語版の出版は1992年より
関節が動くようにつくられた、人形たちです。
左二つは、紀元前2、3世紀に古代ギリシャでつくられた陶器の人形です。そして右は1800年代の半ばに、北イタリアでつくられた木彫りの人形です。1800年代の半ばと言えば、ナポレオンがヨーロッパのあちこちに遠征していた時代でした。

緊迫したヨーロッパの世情とは関係なく、およそ2000年の時を経て、考え方がそっくりな、手足を動かせる人形が、「おもちゃ」として出現したのです。


1800年代の終わりごろには、ガルディーナ地方で量産された木の人形が、広い市場に向けて送り出されていました。
ガルディーナとは、ドイツとオーストリア、そして北イタリアの国境にまたがった山岳地帯のことです。

この、木人形はdutch doll(オランダ人形)と呼ばれ、手足の関節が動くようにつくられた着せ替え人形として、裸のまま売られました。
 

木人形は、服を着せても隠れない部分が彩色されていました。
髪は黒く、頬が赤く染められていました。胸は、襟もとの開いた服(夜会服のイメージか?)を着られるように、広めに白く塗られていました。


頭と胴体は一体になっていて、轆轤で挽いたものを、背中やお腹で削いで、形づくってあります。



木人形は、一世を風靡したものなのか、あるいはありふれたものだったのか、絵本にも登場しています。


絵本の、『Wilhelmina、オランダ人形の冒険』(ロンドン、1909年発行)を読むと、木人形が当時の人たち(この場合はイギリスの人たち)の目にどう映っていたか、その一端をうかがい知ることができます。
オランダ人形の「ウイリヘルミナ」は、売られるためにオランダからイギリスに渡りますが、誰にも注目されず、悲しい時間を過ごします。そして、これも粗末に 扱われている、同郷のだぶだぶパンツのハンスと結婚し、やっとオランダに帰ることができ、幸せに暮らすという物語です。

それほどオランダ人形はありふれた安っぽいもので、あまり大切にはされていなかったということでしょうか?
木人形はまた、penny doll(ペニー人形とも呼ばれていました。当時、1ペニーにどれほどの価値があったのか知りませんが、100円人形と言うほどの意味だったのでしょうか?


この本の中で、木人形のウイリヘルミナはずっと裸でしたが、最後に「結婚衣装がないので結婚できない」と嘆くと、ハンスが自分のだぶだぶパンツの一部を衣装にしてもいいと言ってくれ、パンツの一部を切り取って、ドールハウスの中のお針子人形にドレスをつくってもらいます。

木人形は裸で売られながら、服を着たいと願っていると、人々に思われていたのでしょうか?
 

『少年民藝館』(外村吉之介著、筑摩書房、2011年復刻、オリジナル版は1984年発行)にも、木人形は、イタリアの着せ替え人形として紹介されています。

『The World of TOYS』より

木人形は、ものすごい勢いで雑に生産されたものなのか、あちこち動くようにつくられているのに、ほとんど動かせません。


それも、締め方がきつすぎるのではなく、例えばこの肩、肘も、部材が長すぎて、曲げようとすると引っ掛かって曲げられないという、初歩的な欠陥で動かせないのです。


同じころにつくられたビスクドールが、今も昔も珍重され、大切にされているのに、ちょっと哀しい木人形でした。





2 件のコメント:

いまどき さんのコメント...

同じ手の人形、我が家にもいます。「ガルディーナ」という表記にはじめ「はてな?」と思ったのですが、イタリア語だとそうなるんでしょうか。この地域ドイツ語だと`groeden`あるいは`groedner tal`と呼ばれているので耳で「グレーデン」「グレデナー 谷」という風に張り付いていました。この地域で有名なのはロクロでドーナッツ状に挽いた動物をカットすると切り目が動物の側面になっていて更に小刀で面取りして立体感を持たせた木彫りですね。今は亡きドイツのこけしお婆さんがたくさんコレクションしていました。でもこの人形はニュルンベルグの道具屋さんで手に入れたように記憶しています。復古調に現在作られているのかどうかわかりませんが、一番近いところでいつまで普通に作られていたのか忘れてしまいました。我が家の人形の肩の状態は忘れてしまいましたが、足は動いたと思います。

さんのコメント...

いまどきさん
ガルディーナは、英語読みかもしれないですね。私があたられるものは、日本語と英語だけですから(笑)。三国にまたがって同じ地名で呼ばれていたのか、イタリア北部でつくられたのに、何故ダッチドールか、疑問はいっぱい残っています。
こけしお婆さんとはドイツで会われたのですね。私もお会いしたかったです。ドイツの轆轤人形も本当にいろいろありますね。
ドーナツ状に挽いたものをカットする動物や木は、比較的早くから日本に入ってきていました。確か、ニキティキで見ました。1970年代に、最初に見たころは、どうやってつくったか考えてもみませんでした。
木人形は関節はぷらぷら動き過ぎるよりはと、足などきつめ(長め)につくったのかもしれないと、書いたあとで思いました。新しいうちは端は無理して曲げれば曲がり、そのうちなじむという感じでしょうか。今となっては挿した木が脂が抜けて弱っていると思いますので、試してみる気はありませんが。
私見ですが、木人形は現在はつくられていないのではないでしょうか。そう人気がありそうにないし、当時大量につくられたのでどこにでもあるのか、eBayあたりでも見かけます。
20世紀に入ってセルロイドやソフビに駆逐されたのだと思います。