2015年2月8日日曜日

祖母の味

ときおり、祖母の味を思い出すことがあります。
祖母は瀬戸内海の小さな漁港の網元の娘でした。魚を見る目はあるのですが、なにせ好き嫌いも激しく、きまりきったものしか食べませんでした。
タイ、サワラ、ブリ、クルマエビ、モンゴウイカ、ワタリガニ、アナゴ、メバルなど、どちらかと言えばあっさりした魚が祖母の好物でした。ナマコなどは、「げてもの」と称して、絶対口にしませんでした。
隣のおじさんが、大きなナマコをさばいているのをおっかなびっくり見ていると、
「食べたことねえのか、うまいど」
と笑われたことがありました。

いまでも、私がつくれる祖母の味は、お雑煮くらいでしょうか。
アナゴを焼いてもアナゴが違うし、イイダコを煮てもイイダコが違うし、ママカリのまるた(にぎりずし)を、市販の酢漬けのママカリでつくってみても、全然違う味になってしまいます。


特に懐かしく思い出していたのが、ギザミでした。
熱帯魚のような色鮮やかな魚で、味も覚えているのですが、長い間見たことがなく、私の中では幻の魚になっていました。
ところが、その懐かしいギザミが、数年前にShigeさんのブログで、浜で見つけたキュウセンとして、紹介されていました。愛知では食べられていたのです。
ネット検索してみると、キュウセンは地域によって、ギザミ(瀬戸内海)、シマメグリ(青森県)、モズク(富山県)、ヤギ(島根県)、スジベラ(和歌山県)、ベロコ(香川県)、クサビ(長崎県)、モバミ(鹿児島県)などと呼ばれていて、愛されていますが、内海のものはおいしいけれど外洋のものは不味く、関東ではまったく食べられていないそうです。

さて、祖母がよくつくっていた、拍子木に切った大根と焼き魚を煮た惣菜を、最近になって突然思い出しました。
大根には醤油が染みていて、その上にどんな形をしていたかは忘れましたが焼いて焦げのある魚が乗っていて、ちょっと酸っぱい料理です。
しばらく考えていたら、名前を思い出しました。「煮和えなます」というのです。

さっそくネットで調べて見ましたが、煮和えなますで見つかったのは新潟県上越市の料理だけ、しかも、大根とにんじんを使っているので「なます」と呼んだのかもしれませんが、酢は使っていない、ただの「煮和え」でした。

母がつくった煮和えなますは、思い浮かべられないのですが、知っているはずだと葉書を書いてみると、事細かにレシピを記した返事が戻ってきました。


母は、結婚して間もないころ、父に、
「煮和えなますをつくってくれ」
と言われたのですが、そんな料理は聞いたこともなく、祖母に問い合わせてやっとつくり方がわかったのだそうです。
父も好きだったなら、私が両親と一緒に暮しはじめてからも、たまには夕餉のおかずとしてつくっていたのかもしれませんが、全然記憶にありません。父の酒の肴としてだけつくっていたかもしれないし、魚のほぐし方、大根との混じり方が、祖母のつくったものとは違っていたのかもしれません。

ちなみに、母方の祖母は岡山市内の育ちですが、煮和えなますなんて、見たことも聞いたこともなかったそうです。


さて、その煮和えなますをつくってみました。
母は、サバより脂の少ないカマスがいいというのですが、カマスは手に入らないので、贅沢は言わずにサバでつくります。
まず、サバは焼いて、それを煮て出汁を取ります。
焼いた魚を煮る?半信半疑でしたが、煮汁が白濁しておいしそうになってきました。
そこで、魚を取り出してほぐすと母のレシピには書いてありましたが、小骨を抜いただけでそのままにしました。


出汁の中に柔らかく下茹でした大根を敷き、その上に魚を乗せてさらに煮て、大根に出汁が染みたら醤油で味をつけ、酢も少し加えてできあがりです。


サバでつくってもなかなかのおいしさでした。
こんなお惣菜を食べている人は、今でもいるでしょうか?
私が小さいころでさえ、煮和えなますはまわりの誰も食べていなかった。もしかして、今は世界中で私たち二人だけが食べていると考えると、笑いがこみあげてきます。

いつか「薩摩飯」もつくってみたくなりました。
これも祖母の味、焼いてほぐした白身魚をすり鉢に入れて味噌とすり、出汁も加えてちょうどいい硬さにしたら、すり鉢一面に壁のように貼りつけ、それを直火であぶって焦げ目をつけてから、さらに出汁を加えてゆるくして、カレーのようにご飯に掛けて食べるものです。私も好きだけれど、父の大好物でした。
煮和えなますと違って、薩摩飯は息子たちが小さい頃、一度か二度つくったことがありました。もちろん、ハンバーグなどと比べて、子どもに歓迎されるものではありませんでした。

船でいろいろな地方に寄港し、いろいろな料理を取り入れていた祖母の実家。
煮和えなますのルーツはわかりませんが、薩摩飯は、九州の「ひや汁」を学んで来て、それを熱々で食べたものだと思われます。






2 件のコメント:

mmerian さんのコメント...

薩摩汁はまさに宮崎名物の冷や汁ですね。鹿児島では食べたことがありませんが、一体どちらが本家本元なんでしょう?サバ、美味しそう。宮崎ではカマス3匹200円ですよ。ヽ(^。^)ノ

さんのコメント...

mmerianさん
冷や汁は、九州あたりのものだと思っていましたが、宮崎のものでしたか。はっきり区別しているものもありますが、「九州」で一からげにしていることの多いこと(笑)。冷や汁と言えば、家でつくるかどうかは別にしてもかなり知られています。肉じゃがやポテトサラダなんて、どこで生まれたのか、もう国民的なおかずですよね。それなのに、煮和えなますは誰にも知られていない、この差。ちょっとしたことだったのでしょうね。
あれから、マナガツオを思い出しました。切り身にして、アナゴのようにたれをつけては焼いて、ご飯に乗せて食べます。食べたーい!でも、もう15年くらい見ていません。もっとかな?まだタイに住んでいた頃はよく見て、ときおり楽しんでいました。
宮崎にはきっとマナガツオもいるんでしょうね。移住を考えるには、ここに根を張り過ぎてしまったし....(笑)。