サガリバナ科の常緑高木ゴバンノアシ(Barringtonia asiatica)の英名が、fish poison tree(魚毒の木)であることを知ったのは、和名を知るより前だった気もします。
誰かがどこかで、この美しい花を咲かせる木を魚を麻痺させて捕まえるのに使っていると思うと、どの地域でどうやって使うのだろうと、「魚毒」という名前だけで、興味をそそられたものでした。
2022年3月、盛口満さんが『魚毒植物』(南方新社)という本を出されたので、読んでみました。最初は学術書かと思われるような内容で、なかなか読み進まなかったのですが、盛口さんご自身が描かれたと思われるイラストに誘われて、毎晩少しずつ、たった2ページくらいしか読まない日もあったのですが、後半はもっと集中して読むことができました。
章立てとしては、
1章 魚毒植物とは
2章 日本本土の魚毒漁
3章 琉球列島における魚毒漁
4章 琉球列島における魚毒漁に関する聞き取り
5章 魚毒に関する文献紹介
となっていますが、1章19ページ、2章18ページ、3章70ページ、4章51ページという配分で、内容的には「琉球列島の魚毒漁と魚毒漁から見えてくる社会と人々の暮らし」というものでした。
1章2章が文献からの考察なのに比べて、3章4章は足で歩かれて書かれているので、どんな魚毒植物があったかだけではなく、琉球社会で魚毒漁がどのような位置を占めていたのかが伝わってきて、なかなか興味深いものでした。
fish poison treeであるゴバンノアシにも、1章で触れられていました。
ゴバンノアシを使う魚毒漁は、ポリネシアから東インドにかけて、グアム、サモア、マルケサス、ニューブリテン、フィジーなど太平洋地域で広く見られ、種子を砕いてペースト状にして籠に入れ、入江で深い穴に埋めると、すぐに魚が苦しんで浮かんでくるというものでした。
ゴバンノアシのほかに、熱帯で広く使われている魚毒植物は、デリス属でした。
魚毒漁は、狩猟採集時代から行われている古い漁法で、起源は、トチの実など、水にさらさなくては食べることができなかったものを水にさらしているとき、魚が浮かび上がったのを見て思いつき、発展したのではないかと考察されています。
魚毒漁は、日本本土や琉球列島では主には河川で行われましたが、琉球列島や太平洋の島々などでは、入江が魚毒漁に適した形をしている海でも行われました。
また琉球列島では、魚毒漁と雨乞いに関係があったというのも面白いものでした。日照りのとき、魚毒漁をしたらかえって自然が怒るのではないかと思うところですが、自然を刺激することで、変化を期待したようでした。
魚毒漁はやりすぎると水の中の生態系を壊すので、する側がやりすぎない配慮をすると同時に、常に禁止令が出される対象でもありました。
また、琉球列島では、各島の地質的条件が違っていたので、盛んに物々交換がなされていたこと、木材が採れない島から運ばれた材木の皮を魚毒植物として利用したこと、今ではサトウキビ畑になってしまった水田から、(カンボジアやラオス同様)稲だけでなく多様な動植物が採集されたことなど、ちょっと前まであった生活を多面的に知ることができる3章4章は、とくに興味深いものでした。
ちなみに、日本本土で使われた魚毒植物は、サンショウ、オニグルミ、トチ、エゴノキ、オニドコロなどありふれた植物がおもで、魚毒植物として利用した植物の数は限られていましたが、琉球列島では、島々によって生態系も変わっているため、たくさんの植物が魚毒植物として使われました。
魚毒漁はどこでも、すりつぶした魚毒植物を水の中でもんだり、穴に押し込めたりして、浮かんでくる魚を獲りました。そのことから見えてくるのは、川にも入江にも自然の穴がたくさんあって、そこにウナギなどの魚がたくさん潜んでいたことですが、そのような生息場所をコンクリートで固めて、潜む場所を奪ってしまったことは、魚毒法を繰り返すより、魚の住環境を奪って数を減少させるという意味で、ずっと影響が大きかったのではないかと思いました。
4 件のコメント:
おはようございます。
ゴバンノアシは新潟の海岸で拾った事がありますけど、毒があるなんて知りませんでした。
食べたりしないで良かった。
かねぽんさん
毒といっても、獲った魚は食べるわけですから、人にも危険なようなのはないんじゃないですか?山椒の木をすりつぶしたものだったりするので。もっとも本土でトリカブトが、琉球では青酸カリなどが使われたこともあったようです。くわばら、くわばら。
ゴバンノアシが新潟の海岸に流れ着いたのは、対馬海流に乗って行ったのですね。ロマンがあるなぁ。
サンショウが魚毒漁に使われていたなんて知りませんでした。オニドコロやエゴノキも!植物は毒だらけ。生き残るためにいろいろ武装しているんですね。
hiyocoさん
どうしてサンショウで魚が浮くのか、合点がいきませんよね。
他にも、ネムノキ、カマツカ、ツバキ、カキ、サザンカ、チャノキ、センニンソウなど、身近に親しんでいる植物たちが魚毒として使われていたのには、びっくりでした。
確かに、そうやって武装しているんでしょう。サザンカやチャが、チャドクガを侍らせているのも、もしかして人や動物を近寄らせないという、植物の作戦だったりして。
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