2013年12月4日水曜日

いちまさん


kuskusさんから、
「家に置いておくと箱に入れっぱなしだけれど、おたくだと仲間がいて、寂しくないんじゃないかな」
と、なくなったお母上の市松人形をいただきました。


なかなかの美少女です。


全体としてはとてもいい保存状態ですが、いつも箱に入っていたので、髪に寝癖がついています。


髪が後ろの方に寄ったままびくともしないし、ウエーブもついています。


市松人形に詳しい骨董屋のがんこさんにはこのごろは会わないし、でも何とかしてやりたいと考えているうち、いい助っ人がいたのを思い出しました。コメントをくれるtopcatさんです。
彼は弱冠二十歳そこそこですが、人形をつくったり、昔の人形を修理したりしていらっしゃるので、きっといい方法を知っているに違いありません。
そこで、髪の片寄った写真を送ると、
「大正いちまさんですね」
と、すぐ返事がきました。さすがです。

topcatのお話だと、髪を湿らせてアイロンを当てるとよいとのことでした。
アイロンは自信がありませんが、市松さんは髪をてっぺんで留めているだけなので、寝かせると髪が浮きます。そこで、お顔をビニールで保護して寝かせ、下にはタオルをあてがって、霧吹きで髪を湿らせてみました。


湿り気がいきわたったところで、塊りになっている髪を、指でほぐしました。
髪は抜けやすく、櫛は怖くてとても使えません。ましてやアイロンはできませんでしたが、指で丹念に髪をばらばらにするにつれて、少しずつ癖が取れていきました。


まだまだ、頭の上部で髪が全体に浮いて、そのあたりが角ばっており、100%満足とはいきませんが、なかなかいい感じになりました。
 

髪が落ち着いたら、今度は皺になった着物が気になります。
ずっと箱に入っていたので、腕は胴にくっつかんばかりですが、肩から腕にかけては針金が入っていたので、少し広げてやりました。


せっかくの振袖ですから、腕をこのくらい広げた方が、見映えがします。しかし、皺になった袖をなんとかしなくてはなりません。
 

自信はないけれど、着物を脱がせてみます。
皺を伸ばしたい気持ちもありますが、脚を曲げるようにしたいので、胴と脚のつなぎがどうなっているか確かめたい気持ちもあります。
というのも、脚を曲げないと、座らせることができないからです。

topcatさんのお話では、胴と脚のつなぎが布だったら、そこを解き、詰めものを少々取り除くだけで座らせることができるそうです。ところが、つなぎが紙だったら、それを布につけ替えるところからやらなくてはなりません。


つけ帯を外すと、着物は上下に分かれていました。


腰巻布は胴紙に縫い留めてあるだけでした。


これが、着物を脱いだ市松さんの姿です。
座ることができるように加工しても、かたい胴紙をつけたままで脚を曲げると、胴紙が破れてしまうので、topcatさんは胴紙をはがして、銘がある場合は銘だけを残して、帯のように巻いておくそうです。

どうしよう?
悩むところです。座ってくれると、飾る場所の選択肢が広がります。しかしオリジナルを尊重したい気持ちもあり、結局はそのままにしました。これから、思いたったら、いつでも座れるようにすることはできますが、焦ってばらして後悔だけはしたくありません。というわけで、つなぎが布か紙かもわからずじまいでした。
銘は「蛟龍」でしょうか。印には、「東人形、原田製作」とあります。


着物にはアイロンを当てました。

その昔、市松人形は初節句の贈りものであると同時に着せ替え人形でもありました。また、お裁縫の練習でもあったはずなのに、着物が上下に分かれていて、帯もばらばらで、脱がすことができないようにつくられているということは、「飾りもの」としてだけの機能を、当時から持った人形がつくられていたと言うことだろうと思います。
腰の「あげ」が十分あることからも、布を節約するためではなく、縫い易さ、着せ易さのためと、着姿を尊重するために、上下に分けたとしか考えられませんでした。


腰巻布(腰まで届かないので、足さばき布と呼ぶべきか)を元通り留めつけ、その上に下半分を着せました。足元は、裾が足にあたるし、「ふき」もあるので、どうしてもすっきりとはいきません。


それでもなんとかできあがりました。
袖のしわを伸ばしたので、振袖が映えます。


通常、人形に名前をつけることはない私ですが、今回は「久寿子ちゃん」と名づけました。
kuskusさん、貴重なお人形をありがとうございました。
topcatさん、たくさんの質問におつき合いくださってありがとうございました。

久寿子ちゃんは丈が50センチあり、人形の棚には入らないので、とりあえず大きい招き猫と同居してもらっています。しばらくは、仮住まいです。





6 件のコメント:

topcat さんのコメント...

迂闊なお返事をしてしまい申し訳ありませんでした。よもや、大正市松でこういう着付けのものは見たことなかったもので…(;´`)しかしいいお顔ですね、聡明な、まっすぐな性格をしていそうです。
市松用の人形立ては、靴べらのような棒と厚い板があれば比較的簡単に作れるので、お好きな板材で拵えるといいですよ。立ちん坊のままにせよ、可動式にするにせよ、ディスプレイ時にはとても役に立ちます。

さんのコメント...

topcatさん
いろいろありがとう。気にしているのは、ツーピース(セス)だったってことですか?気にするには及びませんよ。ツーピースの歴史がわかっておもしろいじゃないですか(笑)。着せ替えにするには、帯が三尺帯のような単純な帯でなくてはダメでしょうね。福良雀に結ってあって着せ替えは難しいと思います。
あと、京人形と東人形があるけれど、それはどう違うんでしょう?市松人形素人の私にはさっぱりわかりません。これまでも骨董屋がんこさんがときおりいちまさんや三つ折れ人形をたくさん持っているのを見かけたことはありましたが、近づくと底なし沼のような気がして(笑)近づきませんでした。
いちまさんを立てる台って、帯の間に差し込むのでしょうね。暖かくなったらつくってみます。

kuskus さんのコメント...

春さん
髪の毛も着物のしわも伸ばしてもらって、なにより狭い
箱からだしてもらって、見違えるように晴れやかな顔になっているので胸が熱くなりました。
時代がかったものをもらっていただくのは気がひけたのですが、topcatさんの助けもいただいて久寿子ちゃんがこんなにしあわせそうな顔をしているので、春さんにもらってもらえて感謝しています。
ありがとうございます。

topcat さんのコメント...

確かに底無し沼です、はい(←経験済み…笑)
完全に観賞用のお人形とちがい、“可愛がる”ことを前提に作られたいちまさんは、扱いもちょっと気を遣ってしまいます。手作りの着物とか、持ち物とか、飾り人形より余計に色々な人の思いが詰まっていることも多いでしょう。そこが良いのですけど、数あつまるとそれが何だかしんどくなって…(笑)結局、大部分を手離してしまいました。
「この子ばっかり構ってちゃ悲しむかな」とか、ねえ(笑)他のものと比べたり特別視はしないように心掛けてはいても、たかだかおが屑とか布切れの塊と分かっていても、「お人形さん」という存在は不思議なものです。
京人形と東人形の違いは僕もよく分からないです(笑)古今雛と京雛の境界もよく知らずにいるし、知識はあまり無いですよ(;´∀`)ゞ

さんのコメント...

kuskusさん
そう思っていただけるとなによりです。もちろん、箱は捨てたりしないで取って置きます(笑)。
久寿子ちゃんは90歳くらいかしら?これまでお顔も汚れることなく、怪我することもなく美しく生きてきているので、これからも、大切にしたいと思います。
ありがとうございました。

さんのコメント...

topcatさん
まあ、多かれ少なかれ、人形っていちまさんじゃなくても、そんなところがあるんじゃないですかね。私は人形とのつき合い方はそう心配していないのですが、心配なのは自分の欲望が膨らむこととか、先立つものが先立たないこと(笑)。
まあ、topcatさんは、今頃少々人形を手放したってこれからの出逢いがたくさんありますよ。お楽しみ、お楽しみ。