2010年8月18日水曜日
たかつき
タイ北部の人々の生活は、家や家具、生活の細々した道具まで、すべてに渡って、「木工品」に彩られてきました。
これは「たかつき」で、高膳より小さなものです。高膳が足つきのお盆としたら、たかつきは足つきのお皿というところでしょうか。
たかつきの足のそろばんの玉のような装飾は、アンコールワットなどの石柱にもよく見られるものです。
仏教伝来よりも前に、ヒンドゥー教がインドから、タイ、カンボジアなどに伝えられたとき、木工技術とともに伝えられたものでしょう。
ちょっと深さのあるたかつきです。
轆轤で引いた上下を、やはりそろばん玉のような模様に轆轤で引いた、細い棒でつなげてあります。
このような細い棒で、上下をバランスよくつなぐのは、なかなか技術を要する仕事に思われます。棒を太くして数を減らすとか、轆轤で太い管をつくって、それを削って模様を出す方が、簡単にできそうに思えますが、簡単であるということよりたいせつななにかが、きっとあったのでしょう。
このたかつきの足は、細い棒でできていません。上のお皿と足を、轆轤で別々に引いて、接着してあります。接着剤は、もちろん漆でしょう。
お皿部分に花模様が描いてあって、なかなか美しいたかつきです。
たかつきは、数々の仏教(と、多くは土着信仰が融合した信仰)儀礼に、なくてはならないものでした。
しかし近年、工場製品であるホウロウのお皿に、そしてより安価なプラスティック製品に、とってかわられてしまいました。
写真は、タイ北部の、村の儀礼(ピティー・ガーン)に使われた、ホウロウのお皿です。左の方には、ちらっとですが、漆を塗っていない、木地のたかつきが見えています。
ホウロウのお皿には、泥でつくってバナナの衣装を着せた人形(ひとがた)と、刻んだタバコが、そして木のたかつきには、蓮の蕾が乗せてあります。
これを持って、みんなで村の中を行列し、池のほとりにまできて、仏様にお供えしました。
カンボジアの厄落しの儀礼(ボン)に使われているのは、たかつきではなく、普段使いのプラスティックのお盆と、磁器のお皿です。
お盆にはバナナの葉でつくった飾り物を飾り、お皿には、儀礼に欠かせない聖水を置いています。聖水の飾りは、バナナの茎にろうそくを立てたものと、井桁に組んだお線香です。
聖水入れには、金属を打ち出してつくった、小さなボウルを使うことが多いのですが、なかったらコップでもかまわないという、融通無碍なところが、儀礼(ボン)が気軽にできる秘訣と思われます。
この日は、お坊様が一人招かれて、友人一家が厄落としをしました。
余談ですが、ボンの数日後に、厄を落としたはずの友人が、バイクで転んで怪我をしました。厄落としの甲斐もなく怪我をしてしまったと考えるか、厄落とししておいたために怪我が軽くてすんだと考えるか、「人の生活というのは考えようだね」と、みんなで笑いあったものでした。
タイ東北部の村の、手押し車に乗せられているのは、儀礼に欠かせない、茹でた豚の頭で、ホウロウのお盆に乗せています。豚の鼻を、花で飾ってあるのがご愛嬌です。
豚の頭は値段も安く、写真のように三つもあれば、30人以上の食事がまかなえます。このまま、薄く切り取って、トウガラシを利かせたたれにつけながら食べるのですが、見た目のグロテスクさとは違ってさっぱりと美味で、いくらでも食べられる、庶民のご馳走です。
カンボジアにもたかつきはありますが、ランナー(タイ北部)のものとは、また一味違ったものです。
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