八郷には、数々の御殿がありますが、Sさんちへ行く途中に建つ、この家ほどぶっ飛んだ御殿はめったにありません。
銅葺きの長屋門は、丸太の梁が二本貫き、両側の壁には仁王さまのレリーフが施されています。
その前には、鷲の石造が一対、来る人を威嚇するように立っていて、見る人の度肝を抜きます。
ぴっかぴかに光っていた屋根が落ち着いたと思ったら、また何か建てはじめました。
わけのわからない、東屋風の建物です。
お寺でもない、個人の家なのにどうして?
Sさんに聞いても、詳しいことはわかりません。左官屋さんかもしれないという、はっきりしない情報があるだけです。
そして、こんなに力を入れて、家を飾りたてているにしては、周りがお粗末なのです。すぐ前に別の家が建っていて、母屋は瓦葺きですが、新建材やトタンを使った倉庫やら納屋がごちゃごちゃ建っていて、威圧的な後ろの家のシンボリックさを消し去る役目を果たしています。
このあたりの本当の旧家はしっとりと、周りと調和したたたずまいを見せています。
自然に囲まれた場所なら地形を生かして、「宿」と呼ばれる、家が並んだ場所では、隣と調和しながら、さりげなく自己主張もしながら、家を美しく見せることを、控え目に競っていたりします。
こんな突拍子もない家を建てる気持ちはどんなものか、聞いてみたい気がします。