2024年1月26日金曜日

メコンの本その5、母なるメコン


『The Mekong Currency』は、タイのNGOのProject for Ecological Recovery(PER、生態系回復プロジェクト)とTERRA(何の略だったか忘れた)が企画、メコン川流域を様々な角度から見て、その豊かさを記録し、これらを大切にしようという目的で、1992年に出版した本です。
直訳すれば「メコン通貨」という名前ですが、どういう意味か深く考えもせず、The Mekong Currencyのまま受け入れていましたが、メコン川流域に広く流通しているものとか、メコン川流域に共通しているものとか、そんな意味だったのでしょうか。
昔のことでうろ覚えですが、PERとTERRAは、2つの名前を持った1つのNGOで、名前が2つあったのは、活動内容を分けていたからだったと記憶しています。環境調査と政策提言・啓蒙運動などを分担して活動していて、タイの英字紙『NATION』も支援していました。
1990年代には、PER/TERRAが、タイ国内だけでなく海外のNGOsと連携して活発に環境保護活動をしていました。この本も、カンボジア、ラオス、ヴェトナムのインドシナ三国がやっと西側に対して鎖国政策を解き始めた1992年にいち早く出版されています。写真を撮ったLiesbeth Sluiterは、PERの西洋人スタッフの一人だったのだと思います。


章立ては、ラオス、タイ、カンボジア、ヴェトナムとなっていて、それぞれの地域の生活が紹介されています。


淡々と撮られているたくさんの写真。


30年たった今、失われているものはたくさんあります。タイ東北部の各戸にいた水牛も、トラクターに取って代わられてしまいました。


プノンペンの写真は1990年ごろのものです。
当時、道路を走る車はほとんどなく、古い建物しかありませんでした。このあたりは、すっかり変わっていて、私の住んでいた1990年代の終わりごろでさえ、すでに道路はバイクに埋め尽くされていました。


当時、タイに環境保護のNGOのPER/TERRAができたのは福音と感じましたが、何をなすことができたでしょうか?
環境に依拠した人々の暮らしを守ろうとしたものの、結局は資本主義の大きな波には勝てず、ラオスやボルネオ島の原生林は伐られ、ゴムやヤシのプランテーションが広がり、あちこちにダムがつくられて、生態系も人々の暮らしも大きく変わってしまいました。


資本主義とは、メコンをただの天然資源と見るものです。
しかし、それだけでは片づけられない、メコンは流域の人々の生活を何千年も支えてきた、母なる川です。


いつまでも、メコンに依拠した生活が壊されることなく、長年かかってはぐくんできた、メコンとともに生きる知恵が失われないよう、願ってやみません。


タイ語とラオス語では、メコン川のことを「メーナーム・コン」と言います。メーとは母、ナームは水、「水の母」は転じて川となるので、「コン川」ということになります。
クメール語では「トンレ・メコン」と呼んでいましたが、そのメコンはどこからきたものだったのでしょう? トンレは川です。

今頃は乾季、あちこちで水が引いていることでしょう。






2 件のコメント:

rei さんのコメント...

図書館の検索でキーワード「メコン」を入力したところ、なんと1300件以上がヒットしました。「メコン、4525km」他3冊を予約しました。楽しみです。

道上さんがFBでも紹介されていましたが、「マトリョーシカのルーツを探して」を読みました。マトリョーシカの日本起源説については、おもちゃ美術館の学芸員等に訊ねても曖昧な答えばかりでしたが、この本を読んで、その曖昧な理由が分かりました。

さんのコメント...

reiさん
図書館はさすが、1300件以上とはすごいですね!というか、それだけメコンが人を魅了する川だとも、重要な川だと言えますね。
道上さんのFBは、手術されてしばらく後の、下半身の感覚がないと言うあたりから覗くのが怖すぎて、昨年の暮れ以後は覗いていませんでした。
退院されて、まずはよかったです。
『マトリョーシカのルーツを探して』は知りませんでした。私も図書館で探してみます。道上さんがいらしてマトリョーシカのことでわかったことって本当に多い、素晴らしいです。