夫の両親が週末に暮らした家の壁に、一枚の絵が残っていました。
母が額装したのか、絵とはサイズがあっていない出来合いの額に色のついた厚紙を敷き、その上に絵を乗せていたので、版木の切れているところも、梳いた紙の端も見えていました。
十年ほど前、その家を処分し、あったものを一切合財軽トラックで何度かに分けて運んだ時、ガラスが割れてしまいましたが、割れても惜しいような額縁でもありませんでした。
ただ、絵を飾ったりしない母が飾っていた絵ですから、版画だけは大切に取っておきました。
どうして飾ってあったのか、今となってはわかりませんが、文様の研究をライフワークにしていた母が、浮世絵展に足を運んだ時に気に入って買ったものか、あるいは父からのプレゼントだったかもしれません。
というのも、この女性、所作と言うかなんというか、なんとなく母に似ているのです。
裏から見ると、版木を押した凹凸がはっきり見えます。
浮世絵には疎いので、江戸時代に刷ったものなのか、版木が残っていて明治以降に刷ったものか、そのあたりはわかりません。
長い間そのままにして置きましたが、そうもいかないと、額縁をつくってもらうことにしました。
日本でも手軽に気に入った額縁がつくれるようになったと、なんとなく思っていましたが、勘違いでした。気に入った額縁を見つけてマット紙を選んで額装してもらうだけなら簡単ですが、紙の形からそうはできないとき、縁を選んで組み立てるところから注文すると、ホームセンターで頼んでも、けっこうな値段と制作日数がかかります。
というわけで、本当はガラスにしたかったのですが、アクリルはガラスの三分の一の値段なので、あっさりアクリルで手を打ちました。
一月近くかかって、やっと、何の変哲もない額縁ができあがりました。
しかも、タイの額のように裏をテープで貼っていないので、細い額縁は持つとたわみ、けっこう不安定です。これでアクリルではなくガラスを入れていたら、もっと重くて、細い縁は難しかったかもしれません。
やれやれ。
それにしても、江戸時代の版画ってすごい、細い線が生き生きしています。
墨の濃淡も美しい。
「お母さん、こんな場所、気に入らないよね」
空いてる壁がなかなかないので、しばらくはここで我慢してもらうことにしました。
2 件のコメント:
非常に興味深い版画です。このあと色をさす段階があったのかなかったのか、、。着物の柔らかなラインも美しく表現されています。萱の軒が邪魔にならずさりげなく配置されていることで画面に情景が写しだされています。この女性は、少し急いでいるようにも見えます、どこへ行くのでしょうかね。色々と、想像できるよい一枚ですね。
hattoさん
ありがとうございます。なんだか、面白い絵ですよね。色もついていないし、こんなに腰をかがめて歩いていて...。
西洋のバレーは高く高く天に届こうとするのに対して、東洋の踊り、クメール舞踊とか日本舞踊は決して膝を伸ばしてはダメで、自分の存在を大地に同化させるような気持で小さく、小さくなろうとするそうです。そんな心に通じるような姿、長い間放っておいたのですが、今は出入りするたびに眺めています(笑)。
コメントを投稿