2015年1月27日火曜日

小錦マトリョーシカ


胴が著しく張った、アンナ・リャボヴァさんの「小錦形」マトリョーシカです。


色はきれいだし、おもちゃを抱えているところも好ましいのですが、形はいまいちだと思っていました。


ところが、毎日目につくところに飾って、数ヶ月見続けているうちに、飽きるどころか、「小錦型」にすっかりなじんでしまいました。


小さい娘ほど、さらに胴が張ってきます。

マトリョーシカは、元々ロシアにあった、轆轤(ろくろ)で挽いたイースターの卵や起き上がりこぼしが発展したものと言われています。
また、轆轤細工の素地があったところに、お土産ものとしてもたらされた日本の入れ子の七福神に触発されて生まれたものだとも言われています。19世紀末のことです。
とくに、日本人は後者のお話を好んでいます。

いずれにしても、イースターの卵はもちろんのこと、箱根細工の七福神もほとんど胴がくびれていません。
いったい、激しくくびれて、激しく張りだしたこの形はどこから出てきたものでしょうか?


「小錦形」ではなく、「だるま形」と言うこともできますが、実際のだるまはほとんど胴がくびれていません。だるまはむしろ「卵形」に近い形をしています。

もちろん、マトリョーシカは木を轆轤で挽いたものですから、くびれていようといまいと、自由自在につくれます。


ロバノヴァ・タマラさんも、だるま形のマトリョーシカを好んで使っています。
でも、こちらはバランスが美しいだるま形で、必要以上に胴が張っている、小錦形ではありません。


タマラさんのマトリョーシカ二つ、前列の小さいものは、どちらも一番中の娘です。右は10人セット、左は3人セットなので、一番小さい娘の大きさが違いますが、どちらも、正しい比率で拡大・縮小したように、そっくりな形をしています。

マトリョーシカは、一番小さい、上下に分かれない「むく」のものをまずつくり、それから順番に外へ外へとつくっていくそうです。
ということは、一番小さいものが、大きいものの形を決めることになります。
 

ところが、リャボヴァさんの一番小さい娘はこんな姿をしています。
大きいのよりずっと大胆に胴が張って、胴の直径は頭の直径の三倍ほどでしょうか。


タマラさんの一番小さい娘と比べると、形が全然違うことがわかります。
いずめこではあるまいし、こんなに胴が張っているなんて、どう考えても変です。

マトリョーシカ作家(絵つけ家)にとって、どんな形の木地を使うかはかなり重要な選択だと思われます。リャボヴァさんは、台座のついたいわゆるマトリョーシカ形のバリエーションのほか、下が開いた釣鐘の形、そしてこの小錦形のものを使っています。
木の質は、そう滑らかではなく、比較的粗く削られたもの、なかには、内側はノミの跡がけば立ったような木地を使っていることもあります。
リャボヴァさんのマトリョーシカの、いわゆるマトリョーシカ形の場合、セットのなかの個々の形の違いはそう目立ちませんが、釣鐘型の場合、最後の娘が極端に細長い棒のようなことがあり、小錦形の場合、胴がおだんごのように膨らんでいます。
たぶん、そんな木地が好きなのでしょう。


毎日見ていたら、小さいほど胴が膨らんでいることが不思議になって、ついついリャボヴァ考をしてしまいました。
私の中で、マトリョーシカ・ブームはまだ続いているようです。






2 件のコメント:

karat さんのコメント...

こんにちは。
このぽっちゃりタイプのマトリョーシカの白木は日本では割と手に入れにくいです。たまに通販のサイトで見かけますが、いつもあるわけではなく、また、割高です。

私がいつも作っている型のは量産されているようで、簡単に手に入りますが…。
いくつか購入した経験上、この胴体部分が大きく膨らんだものは、白木のまま置いておくとゆがみや狂いが出やすくて、一番外側の物がきちんと閉まらなくなるし(大体ぶかぶかになる…)、ちょっと力を入れるとひびが入りやすいです(構造上もろいのかも…)。
というようなリスクもあり、また、工場や輸出のラインが違って、日本に入りにくいのかなあと思っています。
ロシアの、白木マトリョーシカの市場の情景を写した写真を見て、本当にいろいろ並べてあって、「ここ行きたい!…」と思ったことがあります。
この作家さんはもちろんロシアの方で、色々直接木地師さんから取り寄せたりしてるんでしょうね。あるいはもっと懇意にしてるとか…。

さんのコメント...

karatさん
そうなんですか。いわゆるマトリョーシカ形のものって、結局量産品なんですね。知りませんでした。
タマラさんは、最近娘さんを引き立てて共作しているせいか、お顔など変化してしまって、私は興味を失いましたが、木地に関して言えば、選択が素晴らしいと思います。どれもとっても素敵な木地で、うっとりします。
それに比べてリャボヴァさんはけっこう冒険的で、「なんだこれ」というような木地もあります(というか、そんなのばっかり)。でもそれがけっこう楽しめちゃうというか(笑)、「変、変」と思いながら、楽しめます。たかがマトリョーシカ、されどマトリョーシカ、おもしろいです。
私はおもちゃも民具も好きですが、どうしてマトリョーシカにはまってしまったのか?(笑)
それは謎ですが、マトリョーシカには大いに楽しませてもらっていて、感謝しています。