作業棟のしっくい壁を塗ってみて、左官仕事がたいへんなのが、骨身にしみてわかっていました。
足場がなくては塗れない東西の壁は、足場撤去までになんとか仕上げまでしましたが、下屋の屋根の上で作業できる南北の壁は、相変わらず下地のまま、早、一年半以上経ってしまいました。
当初、左官仕事が大変そうなのを見て、夫は、
「室中は左官屋さんを頼むよ」
と言ってくれたので、ほっとしていました。室内にはしっくい壁が外よりたくさんあるのです。
ところが時間が経って、冷静に考えると、左官屋さんを頼むのは、経済的に無理でした。やっぱり自分で塗るしかありません。場所によっては無理な姿勢を強いられるので、両膝を人工関節にした夫はできません。
なかなかその気になれないでいたのですが、よい鏝を買ってみることにしました。
これまでは、コンクリート仕上げに使った、ワンコインで二本も買えるような鏝、しかも手入れが悪くてコンクリートがこびりつき、錆びついたものを、表面だけやすりをかけて使ったりしていましたが、鏝を変えればやる気が出るかと考えたのです。
「弘法筆を選ばず」とは、よい道具がないとよい仕事ができないと道具ばかり求めたり、うまくできないのを道具のせいにしたりすることを戒めることわざですが、あの鏝では、もうできないという気持ちが広がっていました。
さて、お盆明けに、鍛冶屋の中屋平治さんを訪問することにしていました。
平治さんが打った鋼を使って、阿保昭則さんがつくったかんなを持っていますが、恐れ多くてとても触れない。長年使ってなくて、刃に曇りが出ているので、平治さんに研いでいただくことにしたのです。そのとき、平治さんのお店でよい鏝を買おうと楽しみにしていたのですが、売っていませんでした。
「中屋」は、その昔、鋸をつくったり目立てをしたりしていた鋸屋の屋号です。
普通の「中屋商店」は、鋸刃が使い捨て時代になった今は、工具類一般を商っています。
ところが、日本一の鍛冶屋と言われている平治さんのお店には、刃物とその手入れに必要なものだけ売っていて、見事に電動工具が一切ありませんでした。
そして、鏝も売っていませんでした。
仕方ない、ネットで買いました。
大小欲しかったのですが、まず、柳葉鏝を買ってみました。
刃は、真ん中が高く、両端が薄くできていて、わずかにしなります。
よい鏝を使っても、右利きの私には右端を塗るのは難しいし、大きな面をこの小さな鏝(10.5センチ)で塗るのは、非効率的な気もしますが、やってみないで大きい鏝を買う勇気はありません。
かんなや平治さんのお店については、秋に受け取りに行くので、その時書きたいと思っています。
「刃はただまっすぐ研げばいいのだから簡単、かんなは台だよ。台は木でできているので、毎日直しても、毎日歪むからね」
とは平治さんのお言葉。
お店には五寸幅の刃を使ったかんなが置いてありましたが、阿保さんに頼まれてつくったという、一尺幅のかんなの写真を見せていただきました。削りかすが、まるで紗の反物のようでした。
平治さんは、今でも鋸もつくっていらっしゃいます。
「うぅぅん」
ただ、唸るだけでした。
2 件のコメント:
姐さんの挑戦ぶりにはただただ驚きです。
さび止め塗装も真似事をしましたが刷毛から違いますからね。
昭ちゃん
大工仕事は自分のペースでやれるので問題ありませんが、左官はお手上げです。多く練ると塗り続けなくてはならないので、少なめに練ったらちょっとのところで足りなかったり、ちょっと余ったからもう少しやるかと、新しいところをはじめたらいつまでも終わらなくてへとへとになったり、なんかそんなことを考えただけで、はじめられません(笑)。
道具はそっくりでもピンからキリがありますね。新しい鏝はまだ使っていないのですが、使って、「いい鏝だとこんなに楽だったのか」と言ってみたいです。やっぱり大変そうだけど(^^♪
先日、高知から来た建築家の人が、土佐にはまだ漆喰の上手な左官屋さんがいっぱい残っているって言ってました。足場や手場の悪いところでも厭わない、力仕事の左官屋さん。年取ったら身体が思うように曲がらないのでできないでしょうね。私も足がつったりします(笑)。
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