何とかそろったものの、一番手前の稲わらの椅子はぼろぼろです。なんというか、わらの油気が抜けて脆くなり、箒でほこりを払っただけで、崩れるようにわら屑が落ちます。
「これ、座るの無理かなぁ」
「大丈夫じゃないの」
と、夫はのんきです。
座った人のお尻にわら屑がついてしまうのはやむを得ないとして、椅子自体が崩壊する恐れだって、ないわけではありません。
この椅子は、19歳の春に友人二人と京都大原の三千院に行ったおり、たまたま大原の里の農家のおばあちゃんが、庭先でこの椅子に座って作業をしていたのを目に止めて声をかけ、いろいろ話し込んだ後、その方がつくりためていたのをわけていただいたものです。当時は農家の庭先はどこも、農作業のために何も植えたりせず広くとってありました。
値段ははっきりとは覚えていませんが、300円くらいだったでしょうか。
ほかの二人は買いませんでした。当時は郵送システムも発達してなくて、アルバイトでためたお金もできるだけ使いたくないので、重いのにずっとぶら下げて、祖母の住んでいた倉敷まで運んで行きました。
大荷物だったので、勧められるままにわらの椅子は置いて行き、祖母が亡くなるまでわらの椅子は祖母の家にありました。足が悪くなっていた祖母は、おかんき(お看経)をするときに、この椅子を重宝していたようでした。
この椅子が必要になって引っ張り出したちょうどその日に、籠屋さん「カゴアミドリ」のネットニュースに、宮崎県日之影町で60年の歴史があるという「わら細工たくぼ」でつくられた、わらの腰掛けが紹介されていました。
カゴアミドリより |
前にも、稲わらの椅子がカゴアミドリで紹介されていたのを覚えていたので、探してみようと思っていたところだったのでびっくり、グッドタイミングでした。
私は小さいころ倉敷で育ちました。
筵(むしろ)、叺(かます)、縄などなど稲わらでつくるものはたくさんありましたが、台所の土間やお風呂の焚口などで使う低い「こしかけ」は木でつくるもの、わらの椅子は見たことがありませんでした。
学生のころ東北から九州までいろいろ旅しました(宮崎県はかすっただけですが)。あちこちの農家にも飛び入りして、農具や民具をいろいろ見せてもらいましたが、京都の大原以外で、稲わらの椅子を見たことはありませんでした。
どうして大原と日之影にこの形の椅子があるのか、つくっていらっしゃる甲斐陽一郎さんに、お聞きしてみたいものです。
ちなみに、私の椅子は座面が広がっていますが、それは長く使っていたから広がったもの、もとは「たくぼ」の椅子同様、円筒形でした。
この椅子を手に入れたとき、京都では、三条河原町の新京極あたりにあった、素泊まり400円くらいの安い宿に泊まっていました。
ある朝、外に出てみたら、道端に稲わらでできたお櫃入れが捨ててありました。保温のために木のお櫃を、稲わらで編んだ蓋つきの籠に入れるのです。まだ使えそう、拾うかどうかしばらく迷ったのですが、もう手に持てないと、諦めたのを思い出しました。
わらがぎっしり詰まった椅子ほどは重くないものの、お櫃入れは業務用だっかのか、ちょっと大きめのものでした。
2 件のコメント:
Wow goooood
Thank you
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