2019年1月23日水曜日

アシャンティーの蝋型鋳物


ガーナのアシャンティーのイボイノシシです。
アフリカ各地に、鍛冶、鋳物、彫金などの技術がありますが、アシャンティーはとくに蝋型(ろうがた)の鋳物に優れています。
蝋型とは、蜜蝋で原型をつくり、それを土で覆って「型」とし、その「型」を焼いて蝋を溶かし去り、空洞になったところに金属を流し込んでつくるものです。
蝋でつくったもとの「原型」は溶けて流れて消えるので、一点ものしかできませんが、型抜きがないので、複雑な形のものが好きにつくれます。
また、アシャンティーの鋳込みを見ると、大掛かりな設備がなくても、炭と七輪と鞴(ふいご)さえあればできるものであることがわかります。


まず、蜜蝋で、つくりたいものの形をつくります。
鋳込むときの湯道(ゆみち)もつけておきます。


あまり厚みがあるものは、材料の金属を多く必要とするので、分銅でなければたいてい、中をくり抜いて薄くつくりますが、このイボイノシシは、固まりになっています。
また、厚みのあるところと薄いところがあると、溶けた金属が固まるときに、部分によって冷め方が違い、温度差の大きさで、ひずんだり割れたりしますが、この程度なら問題ないのでしょう。

点々部分が地金

地金は、手に入れた様々な形をした金属に、切り落とした前作の湯道や失敗作も足して坩堝(るつぼ)に入れ、熱して溶かし、一塊にしておきます。

鞴祭にて。500グラムを当てる余興

関係ない写真ですが、机の上に並んでいるのが、鋳込んだ後に切り離した湯道です。次の鋳込みの時の地金になります。

地金は、アシャンティーの場合、融点の低い真鍮(約800度)や青銅(ブロンズ、約1200度)を使っています。
アシャンティーの坩堝は、火の中に突き刺しやすいよう、底が尖っています。


蜜蝋でつくった原型を土で包み(左)、よく乾いたら湯口を下にして熱して、蜜蝋を溶かし去っておきます。

日本で蝋型の工芸品などをつくるときは、蜜蝋を流して空洞になった熱い型(蝋型)を湯口を上にして置いておいて、そこに坩堝で溶かした金属を、ひしゃくなどで流し込みます。また、歯医者さんが歯に被せる金属部分をつくるときなどは、溶かした金属を圧力で型に詰める、もっと精密な機械を使っています。
とにかく、高温で溶かした金属を扱うものなので、鋳物は普通、軒先で簡単にできるようなものではないイメージがあります。

さて、アシャンティーは、形を整えて一塊にした地金も、湯口につなぐ部分を残して土で、原型と同じように包みます(右)。


その二つの土の塊を、土でつないで乾かし、七輪のかんかんにおこった炭火の上に乗せて、根気よく鞴(ふいご)で風を送ります。風を送られた炭火は高温になり、型もまた高温になり、ついには地金が溶けて、液体となって空洞に流れ込むというわけです。
早朝から夕方まで鞴で風を送り続けなくてはならない、気の長い話ですが、溶けた地金と、熱した型の温度差がありすぎて割れたりする心配もない、これ以上ないほどの簡単な方法で、鋳物をつくることができます。


そうやってつくられた動物たちです。

蝋型は、古代のエジプトや中国でつくられていて、日本へは飛鳥時代初期に仏像と一緒にもたらされています。
古い仏像は、土で大体の形をつくり、その上に蜜蝋を貼りながら細部まで仕上げ、それを土で包み、熱して蝋を抜き、そこに金属を流し込んで作りました。もっとも、飛鳥大仏、奈良の大仏など大きい大仏は、蜜蝋が貴重で手に入りにくいものだったので、別の方法でつくられています。

余談ですが、上野の山の西郷さんの銅像や彫像などが、無垢の金属でできていると勘違いしている人がいます。
あのような大きな彫刻や銅像は、蝋型ではなく別の方法(惣型)でつくりますが、中側にも型(中子、砂)があり、わずか4、5ミリほどの薄い金属でできています。
原型さえ残しておけば、型取りし、分解した型を再度組み合わせて鋳込みの型をつくるので、ロダンの「考える人」のように、何体か同じものをつくることができます。
また、砂型を使えば、南部鉄瓶のように同じものを何個もつくることができます。


アシャンティーの方法では、七輪に乗る程度の小さなものしか作れませんが、設備が整っていて、坩堝に大量の金属を溶かすことができるのであれば、蝋型でもっと大きなものもつくれます。






2 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

面白いですねー。型と地金が入ったものを合体させるのは予想外でびっくりしました!素朴でいい動物たちですね。
何年か前、上野の国立博物館で鋳物の動物の水差しを見た時、鉄ってこんなに自由に成型できるんだと目から鱗でした。
西郷さんやロダンの件も知らなかった!もしかして世の中の銅像は全部中は空洞なんですか?考えたこともなかったです。

さんのコメント...

hiyocoさん
設備がなくても鋳物ができる、アシャンティーの方法は目からうろこでした。

世の中の銅像は全部空洞ですよ(^^♪
奈良や長谷の大仏なんかは、中を抜く必要性がないので、土が詰まっていますが、等身大くらいの銅像はたいてい運びますから、ざっとでも中の砂は抜くと思います。
政治体制が変わると、すぐリーダーの銅像は壊されます。壊されたサダム・フセインの像も印象的でしたね。でも、リーダーだからと言って自分の銅像をつくらせてあちこちに立てる方が異常に見えます。
ヨーロッパなんかは、石造もありますが、銅像もやたら立っていますね。