2023年10月20日金曜日

お茶とサツマイモの道具たち


Oさんが埼玉県の三富新田で連れて行ってくれた友人のお宅は、お茶とサツマイモを生業としていらっしゃる江戸屋さんでした。

これはデモンストレーションのための畑で、茶畑はこの何倍もある

三富新田の入植者はほとんどが農村からの方たちでしたが、その中にあって、江戸から入植したので、江戸屋という屋号がついたというお宅です。


戦国時代から江戸時代にかけて、日本各地の水辺で盛んに開墾が行われ、たくさんの新田ができました。そして、水田を広げるのが難しくなると、水の少ない武蔵野台地のような土地にも開拓の手が延ばされました。
三富新田はそんな開墾地の一つで、3期にわたって全部で180戸、第1期の上富の91戸には、1694年(元禄7年)に1戸に短冊形の5町歩(=約40×675メートル)の土地が与えられました。今でも、上富、中富、下富の三富は当時の面影をよく残していて、県の指定旧跡となっています。


江戸屋さんの家は、宮大工さんが建てたとか、群青の壁と木の飾りや瓦が美しい、屋根にむくりのある素敵な家でした。


蔵の切妻屋根の波風板の下には、大工さん自らが彫ったという、生業にちなんだサツマイモのレリーフと、


お茶のレリーフが飾られています。
「お茶には見えないよね」
と、江戸屋の当主はおっしゃっていましたが、写真で拡大してみると、お茶の花が見えます。


これはその大工さんが完成祝いにとくれた、土地神の社です。


大工さんが彫った狛犬までついている、見事なお社でした。


さて、江戸屋さんの納屋の前で素敵な熊手を見ました。今まで見たことのない形の熊手、ずいぶん縦長です。
江戸屋さんでは、落ち葉を堆肥にしたサツマイモづくりをしています。これは落ち葉を集める熊手で、竹がしなってとても使いやすいのだそうです。こんなに素敵な熊手を使って集めた落ち葉を入れる籠とはいったいどんなものかと思っていたら、籠も見せていただきました。


納屋の一角には、紐を手で引っ張って昇降する、4分の1畳ほど鉄板に乗る手動のエレベーターが取りつけてあり、当主とともに、ただいま二階へ移動中の写真です。


これが二階に置いてある、落ち葉を入れる籠の「八本ばさみ」です。
底が扁平の六角形、縁で楕円になっている籠目に編んだ籠で、緯材(よこざい)を8本はさんでつくるので、八本ばさみと呼び、浅いのもあるそうです。落ち葉をぎゅうぎゅうに詰めると、籠の目に引っかかり、逆さにしてもこぼれない、優れものの籠。落ち葉だからぎゅうぎゅうに詰めても、籠の大きさからすると軽く、運ぶことができるというわけです。


そしてこれは茶摘みの籠です。落ち葉籠の八本ばさみは現役ですが、お茶は今では機械で摘むので、茶摘みの籠は出番がないのかもしれない、ちょっと煤けていました。


二階には、熊手もたくさんありました。
近くに住む籠師さんがご高齢で竹仕事を廃業なさったとき、つくってあったものを全部買ったとおっしゃっていましたが、どうしてそんなに熊手が必要なのか合点がいかなかったところ、帰ってからネットで落ち葉集めのイベントがあると知り、参加者に貸し出すためにも熊手の本数が必要なことがわかりました。


左手に積み上げてある蓆(むしろ)は、あれこれ干すときの、農家の必需品だったことはわかりますが、手前の巻いてあるものが何か、わかりませんでした。
「この巻いてあるものは何ですか?」
「これは、おやじが編んだ霜よけです」
「材料は茅かなぁ?」
「いや、大麦です」
私の祖母は小麦しかつくってなくて、小麦の茎は納屋の屋根を葺くだけでなく、いろいろなものに利用していましたが、大麦で細工したものを見たのは、たぶん初めてです。
「寒冷紗もビニールもない時代の知恵だったんですね。今でも使っていますか?」
「現役です。毎年、サツマイモの苗にかぶせています」
「わぁ、豊かな生活!」
江戸屋さんでは、長女の方のお連れ合いが、お茶で2度も品評会の最高賞を受賞されたそうです。


八本ばさみは、艶々と光っていました。






 

2 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

家と畑と雑木林をセットにする発想が面白いですね。それが整然と並んで壮観です。
道具たちが生き生きとしていますね!

さんのコメント...

hiyocoさん
広大な敷地にびっくりでした。火事を想定して、道路も昔から広く取ってあったらしいし。
でも一時は、敷地の一部を産廃業者に売る人もいて、土壌汚染の問題で大変だったらしいです。5町歩もあるとなかなか管理できないですよね。

道具が素敵でしょう?
あちこち歩いて農家を訪ねた今和次郎が、改めてうらやましいなぁと思いました(笑)。まだ手作りのものが残っていた時代に、他人んちをいっぱい覗きたかった(笑)。