『かごを編む』(堀恵栄子文、在本彌生写真、リトルモア、2024年5月)は、東京白山の自宅で「ギャラリーKEIAN」を営む堀さんの、籠への思いと、材料のスズタケが枯れてしまって苦境に立たされている鳥越の柴田恵さんに寄せる思いが満ち溢れた一冊となっています。
「はじめに」を、ちょっと長いのですがそのままご紹介します。
スズタケを使った鳥越のすず竹細工は、軽くてしなやかで表皮のしっとりした触り心地が魅力です。いわゆる竹のもつ硬く力強いイメージとは異なりますが、華奢に見えて実は丈夫であることにも惹かれます。
「民藝」という言葉と概念を生み出し、新たな価値観から美を見出した柳宗悦にも認められた鳥越のすず竹細工。日用美という言葉がぴったりするかごです。
実は、岩手県北部・鳥越周辺では遥か縄文の時代からスズタケが使われてきました。また、産物として記録に登場するのは江戸時代になってからです。そして、鳥越に住むすべての世帯がすず竹細工にかかわっていた時代を経て、第二次世界大戦後に最盛期を迎えます。しかしながら、時代の変化とともに担い手は減少の一途をたどり、今残る編み手は10~15人ほどで、そのほとんどが70歳を超えています。
それに加え、平成30年(2018年)くらいから。鳥越のスズタケに花が咲いて枯れはじめ、今では大半が枯れてしまっています。この現象が120年周期で訪れることは鳥越の史実からわかっていましたが、なぜそのようになるのか、そのメカニズムは未だ解明されていません。そして、枯れてから再びすず竹細工の材料として使えるくらいに成長するにはさらに20年かかると言われているものの、果たしてその年月で本当に再生できるのか、はっきりとわかってはいないのです。その周期の長さゆえ、これを実際に経験した人は今、誰もいないのですから。
この地で生まれ育ち、すず竹細工の伝統を支える柴田恵さんは、編み手としては若手ながら60代半ば、その編みの技術とセンスで一目置かれる存在です。スズタケの再生が先か、編み手が絶えるのが先か、強い危機感を抱いている恵さんは、もてる技術をすべて後身に伝えるべく孤軍奮闘しています。20年近く恵さんとその仕事に接してきたものとして、また、すず竹細工に魅せられたひとりとして、何かできないかと考え、この本の企画を立ち上げました。
令和5年、6年と、あらためて現地に赴き、スズタケとすず竹細工の今を取材させていただきました。また、関連する場所や関係者にもお話を伺いました。この本が、後世にすず竹細工を伝える一助になればと思っています。そして、多くの方にすず竹細工の魅力を知っていただけたら幸いです。
目次は「鳥越の心」、「鳥越の技」、「鳥越のあゆみ」となっていて、写真もふんだんに入っていて、写真を眺めるだけでもわくわくする本です。
竹ひごづくり。
籠づくりの道具たち。
「北海道・北東北縄文遺跡群」の一つ、青森県八戸市にある是川中居遺跡(約3000年前)から出土したものの中に編み組み品が含まれ、その復元に柴田恵さんが関わられています。
八戸埋蔵文化財センター是川縄文館蔵 |
編み組み品の一つ、籃胎(らんたい)の漆器です。籃胎とは籠で下地をつくってそれを漆で塗る技法のこと、今でもタイ、ビルマなどではつくられています。
これが柴田さんが復元した籃胎の下地、素敵です。
スズタケが一日も早く再生して、次世代に技が繋いでいけることをお祈りするばかりです。
追記:
『かごを編む』の表紙の素敵なバッグ、ところどころスズタケの色が変です。一斉に枯れて以後、健康なスズタケはなかなか見つからないとか、おそらく病んだスズタケの中から使えるものを選び選び編まれたのでしょう。ご苦労が伝わってきます。
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